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第3章 アンステー・クロスの女優
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私の思い出はこの懐かしい土地―――フライアズ･オークに留まっている。そして過去の糸枷から6人ばかりの人物が引き出されてくるのであった。
フランス王党派で亡命生活を送っていたルダン氏―――自尊心は高かったがケチで有名だった！
そして農場経営者のパタースン氏。
彼は現在では進歩派とよばれる思想の持ち主であったが、当時はまだ受け入れられてはいなかった。英国の勝利を耳にしながら少しも喜ばない彼を私は悪い人間の様に見えた。
で、彼の農場の前で彼に見立てた藁人形を焼いた時は(挿絵1)、私はジムとともに手伝ったものだ。それを見たパタースン氏は人々の中に雄雄しく分け入ってきた。そして私たちを怒鳴りつけた―――この戦争で費やされた金をもし英国民の救済に回されたなら皆の生活がもっと楽になるのだ！―――その時私たちは彼の主張を馬鹿げたものだと思ったが、今思えば私たち自身のほうが遥かに愚かではなかったと断言出来ないのである。
そう･･･！それから密輸入者たちもいた。騎馬将校トム・ヒスロップに撃ち殺された密輸入者ダン･スケールズである。
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挿絵1
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| 挿絵2
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私たちがクリフ・ロイヤル邸を冒険した頃、私が家で母と過ごしていると、窓辺から馬車に乗っている女性の姿がみえた。彼女はアルコール中毒の為か顔色は悪く太っていた。
どうやら鍛冶工場へ向うようなので私は後をついていった。ハリスンは馬に 蹄鉄をつける作業をしていたが､彼女がやって来るとひどくおかしな表情をして話し始めた。するとそこへ蹄鉄を持ったジムがやってきた。彼女はジムを見つめその肩に手を置いた。
「あの､あのう､―――あんたが丈夫だといいんだけど」と婦人は口ごもった(挿絵2）
「とても元気なんですよ、奥さん」ジムは婦人から叔父に眼を移しながら言った。ジムはまた工場のほうへ戻っていったがハリスンと婦人は小声で話し込んでいた。彼女が行ってしまったあとハリスンはジムにこう言った。
「あの人はヒントン嬢といって、アンステー･クロスの近くにある楓林荘に移って来なすったんだが、おまえの事が大層好きなんだよ。俺は明日お前をあの人のところへ会いに行かせるって約束したんだよ」
ジムは最初嫌がったが、私が一緒に行く事を条件に叔父の指示に従う事にした。
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ところが最初の訪問は彼女が泥酔していたので散々なものだった。しかし1週間後再度たずねることになった。今度はヒントン嬢は私たちを玄関から出迎えてくれて、居心地の良い部屋へ案内してくれた。
部屋は美しいものが数多く置かれていた。私は興味深く眺めていたが、それに気づいたヒルトン嬢は私に部屋の中に置いてあるもので一番美しいものはどれか尋ねた。
私は真っ先に壁にかかっていた美しい少女の肖像画を(挿絵3)―――「1782年9月14日ヘイマーケット劇場に於て催された『田舎女房』の『ペギー』に扮したポリー・ヒントン嬢」と記されていた。―――さした。
私は「女優ですね」と言うと「そんな言い方をするものではないですよ、この肖像画は私ですよ」と彼女はいった。
そして彼女は私たちの前でその名演技を―――威厳のあるペルーの女王・子供を亡くした哀れな母親・厳格な母親とお転婆娘の軽快なやり取り―――を披露してくれた。
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挿絵3
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| 挿絵4
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それが終わると彼女は食料品室へ消えグラスとブランディ―を持って出てきた。彼女がグラスにお酒を注ごうとしたその時、ジムは椅子から立ち上がって手をブランデーの壜の上に乗せて「いけません」と言った(挿絵4)
ヒントン嬢は優しく柔らいだ黒い眼でジムの顔をのぞき込んだ。ジムは続けていった「貴女は親切な方ですもの、お酒を飲まない方がいいと思いますよ」
するとヒルトン嬢は「どんな事があっても一週間に2回私のところへ貴方が顔を出してくれると約束してくれたら、私も決してお酒を飲まないと約束するわ」といった。
それからというものジムはこの約束をまもり、どんな事があっても週に2回は彼女のところを訪問した。
そしてヒルトン嬢もジムとの約束をかたくなにまもった。そして一年後･･･私の父が帰ってくる前年には田舎のいたるところに住んでいるような美しい婦人に戻ったのである･･･。
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