第10章 拳闘界の人々(前半）
伯父がボクシング愛好家たちの晩餐会を開いたのは、私がロンドンへ出た最初の週の終りだった。彼は主だったボクサーやボクシングに非常に興味を寄せている上流階級の人々に案内状を出した。皇太子も臨席されるというので、この晩餐会の事はすでにロンドン中のクラブで持ちきりになっていた。
宴の当日、私たちが会場となる酒場へ入っていくと５・６人のすごい顔つきの男が集まっていたが、そのうちでも一番荒くれた男がテーブルへ腰掛けて足をブラブラさせていた。
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「どうだね！諸君？元気かね！」伯父は彼らに声をかけた。ボクサー達は立ち上がって帽子を取ったが、テーブルに腰掛けた男―――彼はバークスという名前だった―――はそのままだった。この無礼な態度に怒った仲間のボクサーが彼に注意をした。そのためあやうく乱闘になるかと思われたが伯父が仲裁に入りことなきをえた。
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やがて会場はボクサーや上流階級の人たちでいっぱいになった。その中にはハリスンの逞しい姿もあった。私は彼にフライアズ・オークのことを尋ねた。彼は両親が元気なこと、かわいそうなジムはやはり連れてきてもらえず、へそを曲げてしまったことを話してくれた。
しばらくするとハリスンの元に昔のボクシング仲間のジャックスンがやってきて、彼に今のボクシング界について語り合い始めた。
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そのうち入り口のほうから低い囁き声や騒ぎの音が聞こえてきた。「皇太子だよ」とジャックスンが囁いた。
見てみると皇太子が機嫌の良い微笑を浮かべてやってきた。
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伯父は皇太子を出迎え、4・5人の上品な遊び人たちをその前に連れてきた。
やがて晩餐会は無礼講になった。
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ご馳走は14世紀のノルウェーやゲルマンの先祖たちの食卓に出たような「牛肉の大きな塊、羊の鞍下肉、舌の薫製、子牛の肉とハムのパイ、七面鳥、鳥肉、家鴨、野菜、度の高いシェリー酒、ビール」だった。
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酒宴には有名なボクサー達が大勢いた―――ジャックスン、ジェム・ベルチャー、黒人ボクサー・ビル・リッチモンド、ユダヤ人ボクサー・ダン・メンドザ―――と顔ぶれも様々だった
宴もたけなわになったころ食卓の向こうから小さい声が聞こえた「ね、旦那方、若者に花を持たせるんですな」この声の主は晩餐会の中でも一番の大年寄りであり、誰もこの男の年を言い当てることは出来なかった。
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