第19章　クリフ・ロイヤル 　ハリスンは笑っていたが怪我はひどいものだったので、伯父は急いで手当をしようとした。向こうのほうで、やっと酔いがさめたフライアズ･オークの宿屋の主人ジョン・カミングズがロシアン・ヒューム卿に何かを渡すのがみえた。彼は私たちを見つけると駆け寄ってきた。 　ハリスンはさっそく、ジムと交代した旨を書いた手紙を伯父に渡せなかったカミングスを非難した。 　すると彼は「斧で倒されても文句は言えない」と申し訳なさそうにいった。そして彼は伯父に一通の手紙を渡し、伯父は興味深げにそれを読むと私によこした。それはジムからのもので手紙が届き次第クリフ･ロイヤルに来て欲しいとの文面だった。 　伯父はなにやら知っているらしいハリスンの細君に尋ねてみたが、彼女は「クリフ･ロイヤルへいってご自分で真相をお確かめになったほうがお為でしょう」といってその質問をはぐらかした。(挿絵2） 　　　　　挿絵2　　　　　　　　　　　　　　　　 　　　　　　　　　　　　　　　 　　　　　　　挿絵3　　　　　　　　　　 　　 　しかしハリスンの怪我が心配だった伯父はまっすぐ屋敷には向かわず、彼をクローリまで連れて行った。そして細君に彼の看病を頼むと昼食もそこそこにクリフ･ロイヤルの屋敷へむかった。 　途中までいくと遥か後方に黄塗りの馬車がやってくるのが見えた。 「ロシアン卿もクリフロイヤルに呼ばれたのだな。二人ともあの不吉なる事件の生存者だ。しかも呼んだ人間がジム・ハリスンときている。私も色々経験したが今度は予測ができないよ」と伯父は言った。 　屋敷に到着するとジムが出迎えてくれた。見ると傍らに一人の婦人がいた。私はそれがアンステー・クロスのヒルトン嬢であることがわかった。(挿絵3） 　彼女はジムを連れ出した事を伯父に詫び、そしてジムはわが子である事を告白した。黒い瞳。青みかかった黒髪、広く白い額･･･二人ともそっくりであった。 　　やがてロシアン･ヒューム卿が到着した。卿は自分の所有物である屋敷にいるジムにむかって「さあ、話を聞こう！」といった。(挿絵4） 　私たちの前でヒルトン嬢は事の成り行きを話し始めた。彼女は最初、ジムをロンドンへやって勝負をやらせようとしたのだが、このことをジムの父親が―――ハリスンは彼の実父の親友であり、訳あって彼を引き取って育てたのだ―――この事を聞きつけ反対をしたため、やむ得ず連れ出し、晴れて父子の対面をさせたということであった。 　ジムはこのことを真っ先にベルチャーに話すべきであったが、突然の父親との再開に気が動転をして相談する間もなく、彼女と共に宿を抜け出したと付け加えた。 　そして馬車まで行くと二人のならず者が馬車を止めたため、ジムは馬車の鞭で追い払った。ジムはこの二人が何者かさっぱり分からないと言った。 　そのことに関して伯父は「ロシアン･ヒューム卿におたずねすればわかるだろう」と言った。我らが敵はジロリとこちらを見たがその目は殺気立っていた。 　　　　　　　挿絵4　　　　　　　　　　　　　 　　　　　　　　　　　　　 　　　　　挿絵1 　　 　そしてジムはここで父親と再会したと続けた。 　伯父の顔は蒼白になった「では、君のお父上はだれなんだい？！」 　ジムは返事をする代わりに我々の後ろを指した。 　そこには行方不明になった伯父の従者アンブローズと背の高い黒いドレッシングガウンをきた人物がいた。(挿絵1） その人物はげっそりと痩せ顔色は死人のようであった。しばらくの沈黙が続いたがやがてロシアン･ヒューム卿の打ち沈んだ叫び声で沈黙は破られた 「あ！エイボン卿だ」 「皆さん、どうかよろしく」とその人物は静かに答えたのであった…。