技師の親指 原題 The Adventure of the Engineer's Thumb　(略はengr) 初出 ストランド・マガジン　1892年3月 イラスト シドニー・パジェット(8枚） 邦訳・初出 「片手の機関師」　南陽外史訳 中央新聞　1899年明治32年9月12日から20日(不思議の探偵） 地名 ヴィクトリア街16番地Ａ(四階） (ヴィクター・ハザリーの事務所） バークシャー州　アイフォード (スターク大佐の住居） 事件内容 殺人、通貨偽造 主な登場人物 ヴィクター・ハザリー………水力技師、依頼人 ライサンダー・スターク………自称陸軍大佐、依頼人に水圧プレスの修理を頼む ファーガソン氏………スターク大佐の秘書兼マネージャー 警察官 ブラッドストリート警部 言及されている他の事件 ・ウォーバートン大佐の狂気の事件(語られざる事件） (ワトスン自身がホームズに持ち込んだ事件の一つ） 「密閉された部屋の事件」(ハヤカワ・ポケット・ミステリー　アドリアン・ コナン・ドイル＆ジョン・ディクスン・カー著「ホームズの功績」に収録)　 「ウォーバートン大佐の狂気」(創元推理文庫　ジューン・トムスン著 「シャーロック・ホームズのジャーナル」に収録) あらすじ 　89年の夏の早朝、結婚してパディントン駅の近くで開院していたワトスンの所に一人の男性が治療に訪れます。彼―――ハザリー氏の親指は無残にも切り落とされていたのです。手当てが終わるとワトスンはハザリー氏を伴って221bを訪れます。心持ち落ち着くとハザリー氏は恐ろしいできごとを話し始めました。昨日のこと、家にある水圧プレスの調子が悪いので点検して欲しいとスターク大佐なる人物が彼の事務所を訪れてきました。50ギニーという通常の2倍の報酬を提示されましたが、何度も｢秘密厳守｣と繰り返し、おまけに真夜中に来てほしいというのです。大佐の屋敷に到着すると一人の女性が彼にすぐ帰る様に警告します。彼はこれを無視し水圧プレスを調べ故障箇所と修理の手立てを大佐と秘書のファーガンソン氏に説明しました。ところが彼はうっかり大佐のウソを見抜いた言葉を言ってしまったのです。大佐はハザリー氏を巨大な水圧プレスの部屋へ閉じ込め圧死させようとしましたが、彼は間一髪で脱出します。先ほどの女性の手引きで逃げるハザリー氏でしたが、窓から飛び降りる際に肉切り大包丁を手にした大佐に親指を切られてしまいました。しばらく気絶していたハザリー氏が目覚めるとそこはなんと夕べ降りた駅の前だったのです。そして夜行列車に乗ってワトスンの病院を訪れたのでした。 　早速ハザリー氏の体験を確かめるべく、ブラッドストリート警部たちを伴って事件現場に向かったホームズでしたがそこは意外な展開が待ち構えていたのでした。 解説 　この頃ワトスンは結婚してベイカー街の下宿を引き払っていました。しかし友情厚いワトスンは結婚後も頻繁にホームズを訪ね、また家へ招待もしています。 　聖典でもホームズがワトスンの家を訪ねるシーンは幾つかあるのですが、真夜中とか（「背の曲がった男」）早朝とか（｢株式仲買人｣）等とんでもない時間に来ているのです。 新婚家庭クラッシャー･シャーロック･ホームズ(笑)