ドイル作《オレンジの種五つ》に付けられた注釈の一覧表

コナン・ドイルの全作品の内容紹介と解説・感想（その１：初期作品１８７９年〜１８９３年)
「ササッサ谷からライヘンバッハの滝までの小説」(ネタバレあり)　　by関矢悦子　協力熊谷彰

《オレンジの種五つ》に付けられた注釈の一覧表　(2021年5月21日)

参考資料
　　「ベアリング-グ-ルド解説と注付き」シャーロック・ホームズ全集(解説と注の訳者　高田寛)　原著の刊行1967年　
　　　　(本ページでは「ベアリング-グールド」と略しています)
　　「オックスフォード大学版解説と注付き」シャーロック・ホームズ全集(解説と注の訳者　高田寛)　原著の刊行1993年
　　　　(本ページでは「オックスフォード版」と記しています。《赤毛組合》担当はリチャード・ランセリン・グリーン)
　　　"The New Annotated Sherlock Holmes 3 Vol Set" Arthur Conan Doyle(著), Leslie S. Klinger(著, 編集)2006年刊行　
　　　　(本ページではLeslie S. Klingerと略しています。なお参考にしたのは簡略版です。）
　　　　題名の邦訳及び本文はそれぞれベアリング-グールド版とオックスフォード版ですが、日暮雅通訳新訳シャーロック・ホームズ全集も参考にしています。


	ベアリング-グールド (注46項目図版1項目)		オックスフォード版 (注53項目)		Leslie S. Klinger　 (注46項目)
				01	The Five Orange Pips 注：公開されたのはストランド誌1891年11月号、アメリカ版ストランド・マガジン1891年12月号
01	1882年から1890年までの(記録)			02	records of the Sherlock Holmes cases between the years ’82 and ’90
	注：ベアリング-グールド及Klingerはギャヴィン・ブレンド説の「1881年からと書かなかったのは《緋色の研究》の事件だけがこの年にワトスンが記録をとった唯一の事件だったからだ」を紹介している。
02	1887年に(私たちは多くの事件を手がけた)
03	「パラドール部屋」の事件 (注ではパスティッシュ、寸劇の紹介)	01	「パラドールの部屋」の事件 (注によると1870 年フランス大使館員パラドールがワシントンのホテルの自室で銃による自殺を遂げている)	03	adventure of the Paradol Chamber 注：Klas Lithnerは「パラドール部屋への鍵」の中で、その部屋をフランス人ジャーナリストで政治家のルシアン=アナトール・パラドールの住居と特定している。
		02	家具問屋の地下に豪華なクラブをかまえていた「しろうとこじきクラブ」の事件
		03	消えた英国の三檣帆船ソフィー・アンダスン号」の事件
図版1	ウッファ島のグライス・パターソン一族の奇妙な冒険	04	ウファ島でのグリス・パタスン一家の奇怪な冒険
04	カンバーウェルの毒殺事件	05	カンバーウェル毒殺事件	04	Camberwell poisoning case 注：1901年7月に、The Bookmanの編集者は、『冒険』と『思い出』が「読者が何も知らない事柄についての暗示」に満ちていると訴え、著者に「すべてのタイトル(語られざる物語)の謎を解く」よう要求した。
				05	by winding up the dead man’s watch, to prove that it had been 注：(時計のネジを何回巻いたかと言う以上に)ワトスンのここでの説明には重要な繋がりを省いているのでは？という疑問がある
		06	九月も下旬の、秋分の強い風	06	equinoctial gales
05	煙突の中で風が子供のようにわめいたりすすり泣いたりしていた	07	風は煙突の中で、子どものように、わめいたり泣いたりしていた。
06	クラーク・ラッセルの面白い海洋小説	08	クラーク・ラッセルの面白い小説	07	Clark Russell’s fine sea-stories
	本文は"aunt"おば	09	わたしの妻はおばのところに行ったので	08	My wife was on a visit to her mother’s
	★ ベアリング・グールドはこの箇所では注をつけてはいないが「22.ところでワトスン君、女性はきみの専門領域だ」の項目でストランド誌掲載時では"mother"だったが"aunt"に訂正している。しかし"mother"でも"aunt"でも、《四つの署名》で知り合った身寄りのいないメアリー・モースタンが妻だということはあり得ない。メアリー・モースタンの前に結婚していた女性のことである、と論じています。 ★ オックスフォード版では1891年ストランド誌掲載と1893年刊行の『冒険』初版本では「私は妻が母親を訪ねて出かけていたので」となっていたが、妻のメアリー・モースタンの母親はなくなっているので「おば」に訂正したと説明している。 ★セシル・フォレスター夫人が"aunt"などの最近の説も紹介しているが、編者のクリンガーの説明もベアリング・グールド説をほぼ追っている。
				09	“Except yourself I have none,” he answered.( 「ぼくには君のほかに友だちはいないよ」)
07	(入ってきたのは)22歳くらいの若い男
08	ホーシャム	10	ホーシャム	10	“Yes, from Horsham.”
09	お靴の爪さきについている粘土と白亜土の混合物はあの地方特有のものですからね	11	あなたの靴の先についている、粘土と白亜が混合している泥は、その地特有のものですからね	11	“That clay and chalk mixture which I see upon your toe-caps is quite distinctive.”
	「ホーシャムはタンブリッジ・ウェイルズ砂層の上にあり、その周りの地層はウィールド粘土層であって、白亜層は存在しない」この後の解説ベアリング-グールド版：ワトスンが間違えたのか慎重な考慮の結果「ホーシャム」という地名を記した。オックスフォード版：ベル博士が自分の講義で患者の靴に赤茶色の粘土がついていたことから、どの方角からきたのかを示した(ことの真似ではないか)				1951年にロンドンで開かれたシャーロック・ホームズ展のカタログの編集者たちは、この推論に異議を唱え、ホームズの間違い説、ワトスンのメモの間違い説、そしてオープンショーが自分の行動を正確には言っていない説についての可能性を説明している。
		12	ブレンダガスト少佐から、タンカヴィル・クラブのスキャンダル事件で
10	カードでいかさまをやったと、あらぬ疑いをかけられた人でしたね
11	失敗は四度ありました---三度は男に、一度は女に出し抜かれました			12	“I have been beaten four times—three times by men, and once by a woman.”
		13	ジョン・オウプンショー
12	コヴェントリー			13	My father had a small factory at Coventry
		14	父はコヴェントリーで小さな工場を経営していましたが、自転車が発明されたおりに、大きく発展しました。
		15	パンクしないゴム・タイヤ
		16	イライアス
		17	南北戦争の時には
13	ジャクソン将軍	18	ジャクソン将軍
14	フッド将軍	19	フッド将軍
				14	where he rose to be a colonel (大佐にまで昇進した)
15	リー将軍	20	リー将軍が降伏すると
16	伯父は農場に帰り、三、四年そこに住んでいました。(注はこの伯父について実在の人物にいるかどうかを検証)
		21	アメリカを離れたのは、黒人を嫌っていて	15	his reason for leaving them was his aversion to the negroes, and his dislike of the Republican (注：(現在)「共和党」が「保守的」を意味する時代にあって、共和党が奴隷制の拡大に反対して1856年に組織されたことを思い出すのはおそらく難しいだろう)
		22	彼らに市民権を与えた共和党の政策
17	伯父は父に向かって、ぼくを一緒に住まわせてくれるように頼み
				16	draughts (日本では西洋碁と言われているボードゲーム)
		23	ポンディシェリ	17	Pondicherry
		24	フォーダム(弁護士の苗字)
				18	five little dried orange pips
18	弁護士がそれ( ぼくがサインをした遺言書)を持って行きました			19	I signed the paper as directed, and the lawyer took it away with him.
19	(伯父の死に)自殺の判定を下しました			20	a verdict of suicide
				21	which had been destroyed by Colonel Openshaw. (注：大佐が記録を取った理由が説明できない)
20	(父が相続したのは)家屋敷と14000ポンドほどの銀行預金
21	(手紙が届いたのは)1883年3月10日
		25	南部諸州の再建時代
22	カーペット・バッグ政治屋	26	からのカーペット・バッグに金を集めてよにげしようとしてここに来たような政治屋たち
23	1885年1月(まではぼくたち一家は申し分なく順調)
		27	わたしが大佐の話をしても、そんなことがあるものかと、笑いとばしていました。
		28	ダンディー	22	Dundee
		29	ポーツダウン・ヒルの要塞	23	Portsdown Hill
		30	フリーボディ(父親の友人の苗字)
24	フェアラム注：町の名前	31	フェアラム	24	Fareham
25	(父が亡くなったのは1885年1月)それ以来2年8ヶ月過ぎました。注：ここからホームズを訪れたのは1887年と判る
26	(手紙がきたのは)きのうの朝注：訪れた日は月曜日ではない
		32	ロンドンの東部局	25	London—eastern division
				26	Why did you come to me
				27	4th. Hudson came. Same old platform. (注によるとplatformには文字通りの鉄道プラットフォームの意味の他にKKKが黒人とその協力者たちを服従させ、拷問し、殺害するという意味がある)
27	絶望している時ではありません	33	絶望している場合ではありませんよ
	この言葉の出典は、ホラティウスの『頌歌』第1巻第7行のNil desperandum から
28	(オープンショー青年の話を聞いた)警部
		34	おなじことを繰り返して唱えた注：KKKの主張を繰り返したのであろう
		35	ウォータールー駅	28	By train from Waterloo
		36	ショルトー兄弟	29	Sholtos
29	『四つの署名』は別としてね(ワトスンのセリフ) 注：詳しくは22の考察「ところでワトスン君、女性はきみの専門領域だ」を参照のこと
30	キュヴィエ	37	キュヴィエがたった一本の骨を見て、その動物の全身像を完全に描くことができたようにね	30	Cuvier
		38	ずいぶんときちんとした一覧表注：《緋色の研究》でワトスンが書いた「シャーロック・ホームズの知識および能力」一覧表のこと	31	defined my limits in a very precise fashion(きみはぼくの知識の限界をきわめて正確に列挙したことがあったね。小池滋訳)
31	ホームズはにやりと笑った注：ワトスンが《緋色の研究》の中で作った一覧表には「コカインと煙草の中毒」の項目はなかったから。
				32	chemistry eccentric (注：ワトソンは『緋色の研究』の中でホームズの化学の知識を「深遠“profound”」と呼んだ。より綿密な観察によって、ワトソンは以前の特徴を修正したのかもしれない)
				33	self-poisoner by cocaine and tobacco
				34	be the holder of them who it may (注によるとBenjamin Clarkは"The Horsham Fiasco"の中で問題点などを詳しく記しているそうです)
32	アメリカ百科事典	39	アメリカ百科事典
		40	クー・クラッスス・クラウン注：長文の解説あり。『ジョンソン・ユニバーサル百科事典』によると「ライフルの撃鉄を起こす音に似せてつくったもの」とされているが、「クー・クラッスス・クラウン---その起源・発展・解散」によるとギリシア語の団体、集団を意味している『kuklos』からとったもの、と書かれている	35	Ku Klux Klan 注：長文で詳しい説明がされているので、一部分だけを邦訳すると「この名称は、ホームズの百科事典にある情報とは異なり、ギリシャ語で「円」を意味する『kuklos』に由来すると考えられている」
		41	この種の暴挙をおこなうときには・・・・メロンの種か、オレンジの種であった注：この部分が何に基づいた記述であるかは不明である
33	生死に関わるほど重要だったに違いない
34	(KKKは)1869年に突然活動が停止した。その後は同種類の行動が散発的に起こるのみである	42	(KKKは)1869年になると、その活動は、突然といってもよいほど下火になった
	34注：1868年末に解散消滅した。また、1884年に創立者の一人が歴史をあばく本を出版したが、脅迫を受けたり非難されることはなかった。		42注：テネシー州では1869年２月20日戒厳令がしかれた後、「大魔法使いの見えざる命令」によってKKKは解散したが、1871年の連邦法で使用禁止になるまで他の州では名前が使われた。
				36	who will not sleep easy at night until it is recovered (注によるとマンリー・ウェイド・ウェルマンは、オープンショーへの追跡は現実の歪曲だと主張しているそうです)
35	テーブルの上の新聞をとり上げ注：つまり事件の二日目が日曜日ではない
		43	ウォータールー橋	38	Waterloo Bridge (1844年発表のトーマス・フッドの詩「ため息の橋」の一節が紹介されている) 作品への評価とウォータールー橋のイメージに、『溜息の橋』の舞台となったウォータールー橋が持っているイメージ「テムズ川での水死」を上手く使っていることを説明しています。
		44	H管区注：首都圏警察のＨ管区(ウェストミンスターではなく)はホワイトチャペルが管轄区である (オープンショー青年が川に落ちた場所は実際はE地区ホウボーン管轄区、つまりドイルと注釈者も違っている。1888年の「シティ警察とスコットランド・ヤード」の警察官の人数と下の地図を参照、関矢)	37	H Division (注：H管区は一般的に、ロンドン塔とロイヤル・ミントが最西端に位置する大都市区のステプニー) 下の地図を参照のこと
				39	water police (注にはDickens’Dictionary から水上警察では「昼も夜も、いくつかの船が別々の場所で川をパトロールする」等の説明が記されている)
36	(依頼人を)帰り道で死なしてしまうなんて
37	河岸通り(エンバンクメント)	45	テムズ河沿いのエンバンクメント	40	Embankment
38	その日一日中 (注はベアリング・グールドの得意な事件が起きた日の考察)
				41	“You are hungry,” I remarked.
39	(オレンジの種)五つを取り上げ (注はブレンドの詩を紹介)
40	ジョージア州サヴァンナ港、バルク型帆船ローン・スター号船長ジェイムズ・キャルハウン殿注ではモリアティの存在を示唆	46	ジョージア州サヴァンナ港、帆船ローン・スター号
		47	ジェイムズ・キャルハン(船長の名前)	42	Captain James Calhoun

41	ロイドの記録	48	ロイズ船舶登録簿	43	Lloyd’s registers
42	(手紙を送りつけた船は)アメリカ船籍に違いないことはわかった
43	アルバート・ドック	49	アルバート・ドック
		50	グレイヴズエンド	44	Gravesend
44	グッドウィンズ	51	グッドウィンズ	45	Goodwins
45	ワイト島			46	Isle of Wight
		52	人間の計画というものは・・・・・何かしらつまづきというものがあるものだ注：ロバート・バーンズの詩の一節をふまえたもの「鼠と人間がたてた最良の計画でもうまくはいかない」
46	(「L・S」と刻まれた)ボートの船尾材の破片	53	船尾材が波間に漂って・・・・・二つの文字が刻みつけられている
	注：船の船尾材に普通は船のイニシャルではなく省略なしで刻み込まれている

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