第十二回：1899年現在の内閣の構成　(前編） A：「って、なんですか、これ」 T：「うわっ、ああ、驚いた。な、なんだってまたあなたが……」（困惑） A：「だって、未だ昔の恨みを晴らしていませんもの」 T：「う、恨みってねえ、そんなひどいことしたかなあ……」 A：「そりゃあもう。人使いは荒いし、何か失敗すれば罵詈雑言の嵐、セクハラこそなかったものの、もう……うっうっうっ」（涙） T：「ま、まあ過去の過ちは過ちとして。今日はキャラメルがあるから、これ舐めて御機嫌を直してくれ」 A：「全く、キャラメルなんかでごまかそうとして……あ、貰いますよ。なんだ、森○のミ○ク・キャラメルですかあ？わたし、○永ならハイ・ソ○トが好きなのに……」（不満顔） T：「分かった分かった。この次は用意しておくから、とりあえず本題に入らせてくれ」 A：「はぁ〜い（不満気）。で、これ、なんですか？繰り返しになりますけど」 T：「いや、この頃の内閣の構成について、色々な本によって説明が違う、という話を聞いたもので。きちんと整理しておいた方が良いかな、と思って」 A：「でも普通、そういうのって最初にやっておくべきなんじゃないですか？」 T：「ぐぐっ……ま、まあ色々説明をした後に、最後にまとまようかと思ってはいたんだけれどね」 A：「頭悪いよなあ……」（ぽつりと） T：（泣）「ま、まあそれはそれとして。中にはインド省と植民地省をごっちゃにして記述してある本もあった、という話なんで、それならばと」 A：「能書きはいいから、早く始めてください。全くじじいはこれだからなあ」（溜息） T：「………先ず、1899年当時は、第三次ソールズベリー内閣が英国を統治していた。因みにこの内閣は1902年まで続いている」 A：「あ、ソールズベリーって、『第二のしみ』のベリンジャー卿だって言われている人でしょう」 T：「お、良く知っていたねぇ。あのお話は第二次ソールズベリー内閣の時代（1886年8月〜1892年8月）、というのが定説の様だね。もっとも作品の中での人物像は、グラッドストーンをモデルにして描かれたらしい。ちなみにソールズベリーは侯爵様だ」 A：「内閣の構成員はどうなっていたんですか」 T：「構成員、というとなんだかヤ○ザみたいだけれど、まあいいや。ところがこれが問題なんだなあ」 A：「もう、何かと言えばいっつも『問題』ばっかりじゃないですか。ちゃんと分かって話をしているんじゃないんですか？」（疑惑） T：「ま、またそうやって肺腑をえぐるようなことを……辞書を引くと“Ministry”と“Cabinet”には、何れも『内閣』の意があるんだけれど、どうも使い分けがあるようなんだな、これが。英文科出身のあなたの方が詳しいかな」 A：「二つとも、あまり見た記憶がない単語だから、分かりません」 T：「“Ministry”というと、どうやら全閣僚を指し、“Cabinet”というと閣議に必ず参加する大臣を指すらしいんだな、どうやら」 A：「なら、それでいいじゃないですか」 T：「ところがこれ、内閣によって同じ役職者でも扱いが違っていたらしいんでねぇ。そこが問題、と言っているのさ」 A：「？？？どういうことですか？？？」 T：「年鑑には前内閣（つまり第二次ソールズベリー内閣のことだね）の時の役職者もでているんだけれど、そこにしばしば『キャビネットのメンバーにあらず』と記載されているんだよ」 A：「へ〜〜え」 T：「まあ、実際に見ていこう（現内閣の方だけね、長くなるから）。以下、表にまとめたから見てもらえるかな。先ずは現内閣のキャビネットの方から」
		現内閣のキャビネット 肩書き（英語） 肩書き（日本語・一部試訳） 担当者 Prime Minister 総理大臣 ソールズベリー侯爵 Lord High Chancellor 大法官 ハルスベリー伯爵 Lord President of the Council 枢密院議長 デヴォンシャー公爵 Lord Privy Seal 王璽尚書 クロス子爵 Chancellor of the Exchequer 大蔵大臣 サー・マイケル・ヒックス‐ビーチ准男爵 Secretary of State Home Department 内務大臣 サー・マシュー・ホワイト・ライドリー准男爵 Secretary of State Foreign Department 外務大臣 ソールズベリー侯爵（兼任） Secretary of State Colonial Department 植民地省大臣 ジョウゼフ・チェンバレン Secretary of State War Department 陸軍大臣 ランズダウン公爵 Secretary of State Indian Department インド省大臣 ジョージ・フランシス・ハミルトン卿 Secretary for Scotland スコットランド担当大臣＊ バルフォア‐バーレイ卿 First Lord of the Admiralty 海軍大臣（第一海軍卿） ジョージ・ジョアヒム・ゴッシェン First Lord of the Treasury 国家財政委員長 アーサー・ジェイムズ・バルフォア Lord Lieutenant of Ireland アイルランド総督＊ カドガン伯爵 Lord Chancellor of Ireland アイルランド大法官 アッシュバーン卿 President Board of Trade 商務省大臣 チャールズ・トムソン・リヒター Chancellor Duchy of Lancaster ランカスター公領大法官 ジェームズ‐ヘレフォード卿 President of Local Government Board 自治省大臣 ヘンリー・チャプリン President of Board of Agriculture 農業省大臣 ウォルター・ヒューム・ロング Works and Public Buildings 建設省大臣＊ アルトゥス・アークス‐ダグラス