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「Oh. no. not corny old Sherlock Holmes again」 1980年、サー･アーサー･コナン･ドイルの著作権が切れるこの年にグラナダ版ホームズシリーズの総監督マイケル･コックスはこのルネサンス的スローガンをかかげ、ホームズのドラマ化のためにたった一人グラナダテレビの役員達に立ち向かいこれを認めさせたのです。 しかし本当の戦いはこれからでした。 まずテレビ局はコックス監督にホームズ役として米国で名前が知られている俳優を推薦してきました。が、ホームズに相応しいのはシェークスピア俳優であると確信していたコックス監督は最初からジェレミー･ブレットを考えていました。 ジェレミーがホームズに相応しい声･容姿･知性･物腰･体格･家具を飛び越えられる身軽さ・乗馬･変装などあらゆる能力を備えていたからです。そしてもう一つ重要なポイントはジェレミーがハンサムであるという点でした。 なぜならコナン･ドイルは物語の書きはじめた頃ホームズをハンサムとイメージしていませんでしたが、その挿絵画家であったシドニー･パジェットがハンサムに描いたため大勢の女性読者を獲得できたからです。 デビッド・バークがワトスンに選ばれたのもコックス監督の独断でした。グラナダ版以前はホームズといえばベイジル･ラズボーン、ワトスンはナイジェル･ブルースでした。 ナイジェル･ブルースはそれまで完全に脇役であったワトスンをホームズと対等の地位に押し上げたという功績がありましたが、元々コメディ俳優であったため「少々間が抜けて太った白髪」の男性というワトスン像を世界中に広めてしまったのです。デビッド･バークはコックス監督の希望通りに、聖典に描かれた通りの誠実で精神的バランスが取れ誰よりも勇敢なワトスンを見事に演じきったのです。 徐々にドラマ放映の準備が進んでいたグラナダ版ホームズシリーズに最大の危機が襲いました。それはイアン･リチャードスン主演の「4つの署名」「バスカヴィル家の犬」（共に1983年）を撮影したメイプルトン･フィルムが、米国におけるホームズとワトスンのキャラクターの独占権を主張してきたのです。 2年にも及ぶ裁判はグラナダテレビの勝訴に終わり、ドラマ制作の道筋が明確に開かれるとホームズの舞台のセットの製作がはじまりました。最初コックス監督は撮影所に4つの通りからなるヴィクトリア朝ロンドンの巨大セットの建設を構想していましたが予算の関係上断念、ベイカー街だけを作ることになります。長期の雨風にも耐えられるように、そしてもしもシリーズが続かなければ別のセットに変更出来るように鉄骨で骨組みが作られました。 俳優・セットもそろい遂にコックス監督の夢は最終段階である脚本へとたどりつきますがテレビ局から製作許可を得たのは13話だけで最終回は「最後の事件」だったのです。つまりシリーズが成功しなければホームズは永遠にライヘンバッハの滝底に沈んだままになってしまうのです。 コックス監督と脚本家ジョン・ホークスワークはそういったプレッシャーの中で聖典･研究書･ホームズ以外のドイルの物語を参考に脚本を組み立てました。まず二人はシリーズの基本設定としてシャーロッキアン以外の視聴者が混乱しないように、具体的な事件の日付とメアリー･モースタンを含むワトスンの妻たちなど聖典で不明確になっている事項を排除しました。そして物語はホームズとワトスンの友情を中心に展開していく事に決定します。ホークスワークを筆頭とした選りすぐりの脚本家達は13話をコックス監督のために書き上げました。 それと平行してコックス監督はいちいち聖典を開かずとも簡単にホームズとワトスンの衣食住が分かるように「ベイカー街ファイル」とよばれる事になった小冊子をつくり、ドラマにたずさわる人々全員が理解できるようにしたのです。この小冊子の素晴らしさにジェレミーは「第2の聖典」といって賞賛しました。 このように1984年4月24日の初放送へむけて準備は進められていったのです。 |
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