これは繻子（しゅす）のことで、素材の名前ではなく織り方の名称でありますが、経（たて）糸・緯（よこ）糸ともに絹を使ったものを本繻子と呼ぶことから、絹の項へ入れました。このほかに絹と綿を交織した綿繻子、絹と毛を交織した毛繻子などがあります。いずれも布面に糸が長く浮き出て並んでいるので、糸の方向には平らで滑りがよく、光沢があるのが特色で、襟地、帯地、洋服の裏地、コート地、婦人服地、ネクタイ、靴など多くの用途がありますが、ホームズ物語に出てくるサテンは次の二件だけであります。すなわち、前述の《花嫁失踪事件》（p385）でハイド・パークのサーペンタイン池に浮かんでいたウェディング・ドレスが発見された際に、白サテンの靴もいっしょに見つかったことと、《高名な依頼人》（p206）で、さるやんごとなき方の代理としてホームズを訪ねたサー・ジェイムズ・デマリー大佐が、黒のサテンのネクタイ（cravat）をしていたことであります。
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サーペンタイン池に浮かんでいた白サテンの靴(手前）
《花嫁失踪事件》
(Ｓ・パジェット画） |
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