シャーロッキアンの果てしなき冒険　 by 水野 雅士 ２．ホームズ物語に出てくる主な登場人物の服装 １）男の服装 （2）モーニング・コート（morning coat） 　男子の昼間の礼服には正式礼装のフロック・コートのほかに、モーニング・コートといわれるものがあります。（右図参照）本来は昼間の半礼服として着用されていたもので、黒の上着と共布（同じ生地）のチョッキ、縞のズボン、白いワイシャツからなり、正式には、帽子はシルクハット、スェードの白手袋、黒エナメルの靴、アスコット・タイという組み合わせで着用しましたが、19世紀末以降フロック・コートの着用がすたれてくると、それに代わってこのモーニング・コートが正式礼服として着られるようになりました。モーニング・コートという言葉自体はホームズ物語の文章中には出てきませんが、挿絵で見るかぎり、たとえば《バスカヴィル家の犬》ではホームズとリージェント街を歩くワトスン（p69）やバスカヴィル家の執事バリモア（p176）が着ているのもモーニング・コートのようであります。また《白面の兵士》に出てくるエムズワース家の老執事ラルフも挿絵はありませんが、黒のコートに霜降りのズボンという伝統的スタイルでしたから、たぶんモーニング・コートではなかったかと思われます。 モーニング・コート 平凡社「世界大百科事典」より ワトスン(右） 《バスカヴィル家の犬》 (Ｓ・パジェット画) バリモア 《バスカヴィル家の犬》 (Ｓ・パジェット画)