シャーロッキアンの果てしなき冒険　 by 水野 雅士 ２．ホームズ物語に出てくる主な登場人物の服装 １）男の服装 （4）略式礼服（dinner-jacket または tuxedo） 　夜間用の礼装には前項で述べたイヴニング・コート（燕尾服）のほかに略式礼服としてディナー・ジャケットがあります。（右図参照）生地やズボン、チョッキ､シャツ、帽子、靴などのルールは基本的にイヴニング・コートに準じていますが、上着の後の垂れ尾がなくなり、背広服の形となっています。ネクタイだけはイヴニング・コートの場合と異なり、黒の蝶ネクタイとなります。帽子はホンブルク（中折れ帽）をかぶってもよいことになっていて、略式の夜のパーティーや観劇などに着用されます。これは米国ではタキシードと呼ばれますが、ニューヨークのタキシード公園のクラブ員が会合に揃って着用したのが由来だそうであります。 　このディナー・ジャケット、あるいはタキシードという言葉はホームズ物語のなかには出てきませんが、たとえばシドニー・パジェットが描いた《バスカヴィル家の犬》の挿絵のなかの、バスカヴィル館の食堂で食事をとっているホームズ（p237）や、大広間の壁にかかっている肖像画の一部を手で覆ってワトスンに示しているホームズ（p240）が着ているのは、まぎれもなくディナー・ジャケットに見えるのであります。 略式礼服 平凡社「世界大百科事典」より バスカヴィル館の食堂で食事をとるホームズ　 《バスカヴィル家の犬》 (Ｓ・パジェット画) 大広間で肖像画をワトスンに示すホームズ 《バスカヴィル家の犬》 (Ｓ・パジェット画)