シャーロッキアンの果てしなき冒険　 by 水野 雅士 第６章　ロンドンという舞台 付録　ホームズ物語に出てくるロンドンの地名や場所 地図Ａ　ロンドン中央部とシティ西部 a.チャリング・クロス駅周辺 　ウェストミンスター区が地理的にも実質的にもロンドンの中心的存在であることはすでに述べましたが、まずこの地域とその周辺から出発することにしましよう。テムズ河が東から遡ってきて南へ90度彎曲する曲がり角にあたる部分の北岸にサウス・イースタン鉄道のターミナル、チャリング・クロス駅があります。ここは英国南東部へ向かう始発駅であり《ボヘミアの醜聞》でホームズに深い印象を残したアイリーン・アドラーが、英国を脱出するため大陸へ出発したところでもあります。駅舎の階上はチャリング・クロス・ホテルになっていて《ブルース・パーティントン設計図》でホームズがスパイを逮捕したところであります。 　チャリング・クロス駅の駅頭で駅を背にして北を向いて立つと、左手にはトラファルガー・スクエアが広がり、右手にはストランド街が東へ向かって伸びています。ストランド街の通りを隔てた駅の向かい側の角には、トラファルガー・スクエアに面したチャリング・クロス郵便局があり、ここがストランド街の西端にあたり、《アビ農園》でホームズは事件の調査を終えたあと、ここに立ち寄って犯人を呼び出す電報を打っています。郵便局とは反対方向の東側にはラウザー・アーケードと呼ばれる商店街があり《最後の事件》ではモリアーティ教授一味の目をくらますため、ホームズに指定されたとおり、ワトスンがこのアーケードのストランド街側で馬車を降り、アーケードの反対側まで駆け抜け、そこに待っていたブルーム型の箱馬車に飛び乗って、ヴィクトリア駅へと急いだのであります。ラウザー・アーケードのさらに東側には《高名な依頼人》で暴漢に襲われたホームズが担ぎ込まれたチャリング・クロス病院がありましたが、その後移転したのでいまはありません。南東から北西に向かって斜めに横たわるチャリング・クロス駅の西側を駅舎に沿って南東に走るクレーヴン街には《バスカヴィルの犬》でロンドンに出てきていたジャック・ステイプルトン夫妻が泊まったホテルがありました。 　チャリング・クロス駅周辺 　ストランド・マガジン1907年7月号掲載 A　コックス銀行　Ｂ　グランドホテル　 C　パブ「ザ・シャーロック・ホームズ」 D　チャリング・クロス駅　Ｅ　チャリング・クロス郵便局 FとＧの間がラウザー・アーケードの場所でしたが1904年に 取り壊されたのでこの写真には写っていません。 　このクレーヴン街の一つ西側に、トラファルガー・スクエアの東南端から真南へ下るノーサンバーランド街という辻があり、この辻はやがてノーサンバーランド・アヴェニューという似たような名の南東に走る広い通りへ斜めに合流しますが、その直前の東側に有名なパブ「ザ・シャーロック・ホームズ」があります。かつてベイカー街にあったホームズの書斎兼居間がここに再現されていることで知られていて、多くのシャーロッキアンにとっては、ここでホームズを偲びながら一杯やったり、食事をしたりするのが夢でもあり楽しみでもあるのです。そこはかつてノーサンバーランド・ホテルがあったところであり、《バスカヴィル家の犬》に登場するバスカヴィル館の後継者となったサー・ヘンリー・バスカヴィルが、はるばるカナダから帰国してロンドンに滞在した際に、ここに宿泊しました。そのすぐ南側には《高名な依頼人》に出てくるトルコ式浴場がありましたが、これはホームズとワトスンが行きつけにしていたところであります。トラファルガー・スクエアの東南部からノーサンバーランド・アヴェニューへ入る角にはグランド・ホテルがあり、《高名な依頼人》でワトスンは、このグランド・ホテルとチャリング・クロス駅の間で夕刊を売っていた新聞売り子のポスターと夕刊を見て、ホームズがリージェント街のフランス料理店カフェ・ロワイヤルの前で暴漢に襲われ、チャリング・クロス病院へ担ぎ込まれたことを知ったのであります。 　パブ「ザ・シャーロック・ホームズ」 《高名な依頼人》に出て来る「トルコ式浴場」跡の窓と古くからある壁のタイル 　上記２枚の撮影 関矢 悦子　　撮影日2004年5月2日