シャーロッキアンの果てしなき冒険　 by 水野 雅士 第６章　ロンドンという舞台 付録　ホームズ物語に出てくるロンドンの地名や場所 地図Ａ　ロンドン中央部とシティ西部 f.トラファルガー・スクエアから西へ 　トラファルガー・スクエアの西端から西へ伸びるもう一本の通りペル・メルへ入ってみましょう。ペル・メルはカールトン・クラブをはじめとする、ロンドンの紳士たちのクラブがたくさん集まっている目抜き通りです。《ギリシャ語通訳》に出てくるディオゲネス・クラブはカールトン・クラブからちょっと行ったところにありました。これは社交嫌いな人たちのためのクラブでありますが、このクラブの創設者の一人であるホームズの兄マイクロフトは、ペル・メルのこのクラブから二、三分のところに住んでいたのです。カールトン・クラブの北側にはセント・ジェイムズ・スクエアという広場があり、ここには貴族の邸宅が多くありました。また広場の西端には《高名な依頼人》でワトスンが中国陶器の勉強をするために参考書を借り出したロンドン図書館があります。 　19世紀末のペル・メル街 　高田寛所蔵 　セント・ジェイムズ・スクエアは西側がペル・メルとピカデリーを南北に結ぶセント・ジェイムズ街で区切られていて、この通りにあったセント・ジェイムズ・ストリート・クラブは《三破風館(スリー・ゲイブルズ)》に登場するラングデイル・パイクが、起きている間はいつもとぐろを巻いていたところであります。彼は世の中のスキャンダルに関する生き字引であり、ありとあらゆるゴシップの中継基地であり、受信基地ともなっている男で、ホームズが付き合っていた情報屋の一人でありました。 　南北を縦断するリージェント街の南端はペル・メルと交わる手前でウォータールー・プレイスという短い通りにとって代わられます。このウォータールー・プレイスはペル・メルおよびそのすぐ南に平行して走っているカールトン・ハウス・テラスという通りと直交し、そのすぐ先にあるヨーク公記念塔の下の石段で終ります。カールトン・ハウス・テラスは《プライオリ学校》に出てくる英国政界の重鎮ホウルダネス公爵の住居があった高級住宅地で、のちにジョージ四世となるリージェント皇太子（１７６２-１８３０）の自宅があったところでもあります。このカールトン・ハウス・テラスからヨーク公記念塔にいたるまで、通りの西側はドイツ大使館の建物に占められていたので、《最後の挨拶》でドイツ公使館の書記官長フォン・ヘルリング男爵は「ドイツ大使館」のことを「カールトン・ハウス・テラス」とか「ヨーク公記念塔の下の石段」というような比喩的表現を使って呼んでいます。ヨーク公記念塔の下には幅広い石段があり、これがセント・ジェイムズ・パークの北口に接しています。 ヨーク公記念塔 撮影　関矢 悦子 撮影日2004年1月6日