１８８９年６月の夕方妻の学校時代の友人ケート・ホイットニーが突然訪ねてきた。話は夫のアイザ・ホイットニーが二日もうちに帰ってこないと、相談を持ち掛けてきた。夫はアヘン中毒にかかっておりアパー・スワンダム・レイン（Upper Swandam Lane）のアヘン窟「金の棒」（Bar of Gold）にいることをつかんでいた。
そこはロンドン橋（地図Aと地図Bの①）の東側のテムズ河北岸に並んだ高い波止場の裏手にある、汚らしい路地にあり、建物の裏には落とし戸がありポール波止場（Paul’s Wharf、地図Aの②）のそばとのこと。通りの名前は架空なのでその場所の確定には諸説ありワトスンがロンドン橋東側と書いているがそこはロワー・テムズ・ストリート（Lower Thames Str.地図Aの❶）ですぐに魚市場（Billingsgate Fish Market地図Aの③）および税関（Custom House地図Aの④）にぶつかるが、それらについて何も記載は無く単に東側というのはワトスンの得意とする実際の場所を隠す手口と思われる。
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物語の中にあるアパー・スワンダム・レインはロンドン橋の西側のアパー・テムズ・ストリート（Upper Thames Str.地図Aの❷） だろうが、「金の棒」は「ポール波止場のそば」（near the corner of Paul’s Wharf）とあるのでこれを手掛かりにすると、ロンドン橋の西側にあるトリッグ・レイン（Trig Lane地図Aの❸赤線を引いた小路）のあたりと推測される。「図版１」にある建物の３階から上着を落とした時は満潮で、「図版1」のような干潮になった時上着は発見された。
「金の棒」(内部の様子：図版３）でアイザ・ホイットニーを見つけたワトスンは偶然にもそこでネビル・セントクレア事件を調査中であったホームズと出くわした。ここでワトスンはこのネビル・セントクレア事件に巻き込まれホームズと一緒にケント州リー（Lee）近くにあるセントクレア邸に馬車で行くことになった。「馬車は果てしなく続く暗い通りを一目散に走り出した。道はしだいに広くなり、やがて欄干のある大きな橋を渡った」途中ホームズはこの事件のいきさつを手短に、わかりやすくワトスンに話した。「ホームズが一連の奇怪なできごとを語っている間にも馬車はロンドン郊外をひたすら走り続け・・・、ホームズが語り終えたころにはリーの外れまで来ていた。ちょっと馬車を走らせているうちに、イングランドの三つ州を通りすぎた。ミドルセックス州を出発してサリー州の一角をかすめ、ケント州の「杉屋敷」（The Cedars）にたどり着いた。」 |
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この道順を追ってみよう。
「金の棒」（Middlesex州、１９７４年のLocal Government Reorganization でGreater Londonとなった）を出たホームズは欄干のある大きな橋（ロンドン橋）を渡り
バラ・ハイ・ストリート（Borough High Str.地図Bの⑥）から
地図Bの❹グレート・ドーヴァー・ストリート（Great Dover Str.）
地図Bの❺オールド・ケント・ロード（Old Kent Rd.Surrey州）を抜け
地図Bの❻ルイシャム・ウェイ（Lewisham Way）
地図Bの❼リー・ハイ・ロード（Lee High Rd.）
を経てリーの町はずれにある「杉屋敷」に着いた。
この❹Great Dover Str., ❺Old Kent Rd.は昔ローマ軍がドーバー海峡を渡りロンドンまで進軍した道で、また中世には巡礼地カンタベリー寺院への巡礼の道となったところである。
巡礼者が止まった「The George Inn」（図版3）（馬車をそのまま庭に乗り入れることができるコーチング・インになっている）はバラ・ハイ・ストリート(地図Bの⑥）沿いに現在もナショナル・トラストとして残されている。 |
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| さてホームズが調査している事件とは失踪したネビル・セントクレアの探索であった。ある日のことセントクレア夫人は「金の棒」の窓に夫の姿を見かけた。だが直後に夫がいなくなってしまい、夫人は警察に助けを求めた。警察が乗り込むと部屋にいたのはロンドン名物の非凡な乞食ヒュー・ブーンただ一人で、警察はこの男を逮捕したが、あいにく失踪した男の行方が分かるわけがなかった。 |
ヒュー・ブーンは乞食が商売でスレッド・ニードル・ストリート（Threadneedle Str.地図Aの⓬）（図版4）を少し行き、ひだりがわに塀がちょっと折れ曲がったところで商売をしていた。一日の稼ぎは２６シリング４ペンス （現在の３万円ぐらい）とのこと。ネビル・セントクレアの安否を議論しているとき夫人がグレーヴズエンド局消印の手紙を夫から受け取っていることを告げるとホームズは椅子から飛び上がるほどびっくりした。
ホームズはいろいろ熟考したあげく「正直言って、僕はモグラ同然に目が見えない状態だった。しかし知るのが遅くなったといえ、何もわからないよりましだろう」という名セリフを残し、早朝に馬車にとび乗り、ロンドン街道を勢いよく走り出しボウ街の警察署に向かった。
この道順は「杉屋敷」に来た道と同じ道をオールド・ケント・ロードからエレファント・アンド・キャッスル（Elephant & Castle地図Bの❽）を通り抜けウオータルー・ロード（Waterloo Rd.地図Bの❾）からウオータルー橋（Waterloo Bridge地図Bと地図Cの⑦）を渡りウエリントン・ストリート（Wellington Str.地図Cの❿）を一気にとばしボウ・ストリート（Bow Str.地図Cの⓫）の警察（地図Cの⑧、図版5）に到着した。
そこでネビル・セントクレア失踪事件に関与した嫌疑を受けている例の乞食のブーンのところに行き用意していた入浴用の特大スポンジに水を含ませごしごし洗ってみると、ブーンはなんとネビル・セントクレア氏その人であった。 |
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