シャーロッキアン電脳空間漫歩帖(その40-前編）　高田寛
　ウィリアム・ジレット雑記帳（その9ー後編　亡くなるまでと生涯を紹介している動画）公開日2022年月日
　　

Ｔ：「ではお話を戻しまして。サヨナラ公演中の1931年11月、ジレットはその長年に亘る劇作家としての功績に対し、
　　アメリカ芸術文学アカデミーから金メダルを授与されます」

み：「ほうほう」

Ｔ：「この金メダルと共に、コロンビア大学、トリニティ・カレッジ、ダートマス・カレッジ、そしてエール大学から
　　名誉学位が与えられている、との事」

み：「日本で言えば、文化勲章や文化功労章に該当するのかな」

Ｔ：「芸術文学アカデミーの創設は1898年ですから、アメリカの方が早いですね。さて1932年５月12日、この日は
　　ジレットが舞台で最後にホームズを演じた日なのですが」

み：「どうかしましたか。舞台の上で心臓発作か何か起こした、とか」

Ｔ：「いえ、そうでなないのですが、観客に向かって『メリー・クリスマス、アンドハッピィ・ニュー・イヤー』と
　　挨拶をしたそうで」

み：「……そ、それは……どういう意図があったんでしょうか」

Ｔ：「わたくしにも皆目見当が付きませんね。認知症の初期症状という訳でもなさそうですし」

み：「それはさておき、ジレットがホームズを演じたのは、これが最後という事ですか」

Ｔ：「少し時期は飛びますが、1935年11月18日にニューヨークのWABCラジオで、自作のホームズ劇の短縮版で、ホームズを
　　演じたのが最後と伝わっています」

み：「ううむ、最晩年でもホームズを演じてほしいという声は根強かったんでしょうか」

Ｔ：「昭和20年代後半～30年代前半の、時代劇全盛時代にあって銭形平次と言えば、長谷川一夫の代名詞的役柄であった
　　ようなものか、と」

み：「ま、またそんな大昔のお話を、さもリアルで体験したような口調で……」（呆れて）

Ｔ：「個人的には銭形平次は、と脱線するときりがないので、お話をジレットに戻しまして。1932年12月ジレットが住まいにしていた、
　　”Aunt Polly”が焼失します」 　 　

み：「はてな、これは何ですか」

Ｔ：「これは現在も残る、”Aunt Polly”の残骸だそうです。何で綺麗に片づけずにそのままなのか、理由の出ているサイトが見つからない
　　ので分からずじまいです」

み：「長年住まいにしていた船だったから、愛着があったのかなあ……」

Ｔ：「当時船が焼失した原因について、ジレットが保険金欲しさに自分で船に火を放ったのでは、との噂がたったそうですが」

み：「おやおや。で真相はどうだったんでしょう」

Ｔ：「ジレット曰く、『それは真実である筈がない。何故なら私は船に保険を掛けていなかったのだ』そうです」

み：「う～む、それじゃあねえ」

Ｔ：「その２年後の1934年12月、ジレットはBaker Street Irregularsのディナー・ミーティングに招かれます」

み：「おお、ここでBSIとジレットの接点が」

Ｔ：「その後1936年２月27日、ジレットは地元コネティカット州ハートフォードのブッシュウェル・メモリアル・ホールで、
　　最後の舞台に立ちます」

み：「演目は何だったのですか」

Ｔ：「オースティン・ストロング作の喜劇”Three Wise Fools”というお芝居、と伝わっていますね」

み：「なるほど」

Ｔ：「只、ニューヨーク・タイムズの死亡記事の見出しを見ると、生前のジレットは年齢について、どうやらサバを読んでいた様で」

み：「おや、それはそういう事でしょう」

Ｔ：「当時のニューヨーク・タイムズの、死亡記事の見出しがこちら」

WILLIAM GILLETTE, ACTOR,
DEAD AT 81; Director and Playwright Had Gained Chief Fame in Role of Sherlock Holmes
- The New York Times (nytimes.com)

み：「どれどれ……あ、確かに81歳で死去とありますね」

Ｔ：「有名人が、年齢を少し若くいってみたり、或いは逆に実年齢より上だ、と主張する事はままあるので、ジレットもその例に
　　 漏れなかった、という事で」

み：「う～む……」

Ｔ：「さてここからはDeep Videoと題する、パワーポイント風に纏めた動画がありましたので、先ずはこちらをご紹介したい、と思います」

み：「流れる音声は当然英語なんでしょう。自分は英語が少しくらい出来るからと言って……」

Ｔ：「こちらが左程訛りが強くなくて、また話している内容も表示されるので（そこがパワーポイント風と申し上げた所）、要所要所で
　　 解説を入れたい、と思います」

み：「それではお願いします」

Ｔ：「まずは、ジレット城内のビジター・センターの展示の案内、次いで城の外観について」

み：「ふむふむ」

Ｔ：「26秒ほどの所で、嘗ての鉄道址のハイキング・コースの案内が」

み：「ほほう」

Ｔ：「28秒当たりから、ジレットの生涯の説明に入ります。46秒ほどで親父ジレットとお袋ジレットの紹介が」

み：「おや、１分ほどの所で画像が切り替わって……ああ、これは子供の頃のジレットの写真ですね」

Ｔ：「１分10秒ほどの所から、幼少時代から鉄道が大好きだった事が述べられています」

み：「両親はジレットを法律家にしたかったけれども、彼は演劇に目覚めてしまったんですよね」

Ｔ：「２分過ぎの所で、20歳になったジレットが、舞台に立った事が語られていまして」

み：「あ、前に貼り付けていた若かりし頃のジレットの写真が出てきますね」

Ｔ：「1875年にマーク・トウェインが近所に引っ越してきて、”The Gilded Age“というトウェインの芝居に、ジレットを出演させた話が、
　　2分20秒ほどの所から語られています」

み：「ニュー・イングランドの各地を役者として旅をした、と言っている様ですね」

Ｔ：「３分過ぎの画面で、ジレットが巡業で訪れた所が示されています」

み：「あれ、次の画面で登場する奥さんのヘレン・ニコルズも舞台女優だった、と言っているなあ」

Ｔ：「そ、そうなんですね。わたくしが最初に見た資料では、特に女優だったという記載はなかったので。ここで初めて女優説に出くわして、
　　頭を抱えて居りまして」（滝汗）

み：「本当の所はどうだったのかな」

Ｔ：「正直申しまして、わたくしには何とも……」

み：「余り引っ掛かっていると先に進めないから、とりあえず女優説もあるとしておきましょう」（にこにこ）

Ｔ：「恐れ入ります。で1888年にヘレンに先立たれると、傷心のジレットはナンタケット、フロリダ、ジョージアの各地を旅した、との事で」

み：「ナンタケットで聞いた事のない地名ですけど、どこですか」

Ｔ：「マサチューセッツ州南部にある島だそうで、リゾート地としても有名だそうです。わたくしも知らなかったので、
　　先ずはマサチューセッツ州の地図を」

み：「これのどこですか」

Ｔ：「右下の三日月型を思わせる島がそれです。島の地図を貼り付けます」

み：「ふうん、なるほどねえ」

Ｔ：「で４分11秒ほどの所で、彼がノースカロライナ州タイロンに建てた、バンガローのスケッチが紹介されます」

み：「ふむふむ」

Ｔ：「以前この地でジレットが病に倒れた事は紹介しましたが、この資料によりますと結核だった、と語られています」

み：「や。ジレットも結核に感染していたのですか」

Ｔ：「この地で、後に持ち船の名前の由来にもなった、Aunt Polly(と彼が読んでいた友人)の手厚い看護によって、健康を取り戻した、
　　とありますね」

み：「抗生物質のない時代だったから、そりゃあ恩人の名前を付けたくもなるなあ」

Ｔ：「1894年にお芝居の世界に復帰したジレットは、執筆・上演・プロデュース・そして監督を兼務する事が成功への道筋である事に
　　気づきます」

み：「とは言っても才能の裏付けがないと、成功しないなあ。それが出来たのは、天賦の才能に恵まれていたんだろうなあ」

Ｔ：「５分ほどの所で、細身で身長は６フィート３インチ、鋭い青い目の持主だったと語られていますね」

み：「白黒写真じゃ、目玉の色は解らないものなあ。6フィート３インチの身長という事は、え～と、え～と……ほぼ190センチか。う～む、
　　随分背が高かったんだなあ」

Ｔ：「５分２０秒過ぎの所で、名声を確たるものにした”Too Much Johnson”、”Secret Service”の二つの自作のお芝居に言及があります」

み：「次の画面から、シャーロック・ホームズとの出会いのお話になるのですね」

Ｔ：「この映像では、ジレットがホームズに鹿討帽、曲がったブライヤーのパイプ、虫眼鏡、ヴァイオリン、そして注射器を付与した、
　　と言っていますが」

み：「う～ん、曲がったパイプ以外は、ちょっと違うと思うけれどなあ」

Ｔ：「リアルなイメージを定着させた、という点では確かに大きかったでしょうね。『ドイルは文学上の人物としてホームズを産み出したが』」

み：「ふむふむ」

Ｔ：「『ジレットは彼を時の流れに堪え得る、不滅の存在にした』という言い方をしていますね」

み：「その辺りは考え方ですね」

Ｔ：「そしてジレットのホームズが余りにリアルであったため、ホームズは実在の人物だと大勢の人が思う様になったとも」

み：「今でもベイカー街には、ホームズ宛の手紙が届く、というし」

Ｔ：「今から14年程前の記事ですが、その当時でホームズは実在の人物だと考えている英国人の割合は58％だったそうで」

み：「半分以上の人が、ホームズが実在の人物だったと思っているんですか」

Ｔ：「一方チャーチルが伝説上の人物、と考えている人は23％だ、とも」

み：「ひ、ひえ～」（唖然）

Ｔ：「記事が未だ電脳世界でアクセス可能でしたので、アドレスを張り付け」

み：「う～ん、英国人は腹黒ともユーモア好きとも言われているから、この世論調査でどれだけの人が真面目に答えたか、ちょっと
　　疑問だなあ」

Ｔ：「それでも話半分、としても大したものですね。で、６分30秒ほどの所で、1900年の英国での興行収入が約10万ドルに達したと」

み：「そのすぐあとで、現在のお金に換算すると260万ドルと言っているから、１ドル＝130円で計算すると、え～と、え～と、
　　3億3,600万円か。凄いなあ」（驚嘆）

Ｔ：「６分40秒当たりから、ジレットが住まいにしていた船の話になります。非常に贅を凝らした作りだったそうで」

み：「紹介されている写真でも、その辺りが窺えますね」

Ｔ：「で1913年にコネティカット川を航行中に、セブン・シスターズという高台が気に入って、土地を購入。1914年から御屋敷の
　　建設工事を始めた、との事」

み：「ここでジレット城が姿を現す訳ですね」

Ｔ：「1919年に完成、その後1923年に使用人の住む場所や２つの塔を増築した、とも」

み：「う～む、凄いなあ」

Ｔ：「８分過ぎの所から、内部の紹介が始まります。居間の天井迄の高さは19フィートあるそうで。自身では自分の住まいを
　　『少年の想像するパラダイス』と称したそうで」

み：「ううむ、そんな領域を遥かに凌駕していると思うけれど」

Ｔ：「47あるドアのうち、同じデザインのものはないとも。また自身では『城』と呼ばずに『ハイドラムの石の堆積物』と
　　読んでいた、との事」

み：「ハイドラムって、どこですか」

Ｔ：「ジレット城のある、すぐ隣の地域の名前の様です。そしてこの後の９分ごろから、この城を建てた時に尾崎行隆氏の住まいも
　　拵えた事の紹介が」

み：「おお。ジレットの生涯を語る上で、行隆氏は不可欠の存在でもあった訳ですね」

Ｔ：「先達てお話しました様に、行隆氏の家はコネティカット川の近くにある旨の説明があります」

み：「なるほど」

Ｔ：「何回か引退宣言、その後の再起を繰り返すうちに、ジレットは次第にこのジレット城に籠る割合が増えていった、とも」

み：「まあ段々年齢も重ねて来たから、無理もない所かな」

Ｔ：「そして子供の頃のもう一つの夢だった、自分の家に鉄道を拵える夢を叶える事に」

み：「路線や機関車までも設計するんだから、前にも言った様な気がするけれど、大変なものだよなあ」

Ｔ：「９分50秒過ぎの所から、敷地内で線路をどの様に張り巡らせたか、説明があります。路線の総延長は３マイルほど」

み：「ジレット邸を訪れた客人を乗せたと言っていましたが、皆喜んでジレット鉄道の旅を満喫したのかな」

Ｔ：「アインシュタイン夫妻は、ジレットの運転ぶりにびびったそうで。一方クーリッジ大統領は、大いに楽しんだと伝わっている、
　　とありますね」

み：「そうか。誰もが楽しんだ訳でもなかったのか」

Ｔ：「他にチャップリンや女優のヘレン・ヘイズも、乗車した有名人として伝わっています」

み：「おや、1927年にフォックスムービートーンが、２分ほどの映画を撮った、とか説明していますね」

Ｔ：「サイレント映画の時代が終わり、最も早いトーキーで撮影された映像の一つ、だそうですが、映像そのものは以前紹介したものと
　　同じですね」

み：「で、ホームズを最後に演じたのが1932年、最後に舞台に立ったのが1936年、これは先にお話があったものと一致していますね」

Ｔ：「一致していなければわたくしの調査が好い加減だった証拠に他ならない訳、でして」

み：「お墓はコネティカット州のファーミントンの、妻の隣にたてられた、とありますがファーミントンってどこですか」

Ｔ：「地図で見ますとハートフォードの東、５キロくらいの所の様です」

み：「もっとごっついお墓か、と思ったら案外質素ですね」

Ｔ：「ジレット没後、1942年迄は彼の親類縁者がこのお城に住んでいたそうですが、1943年にコネティカット州が買い上げて、
　　州立公園になって現在に至る、という事ですね」

み：「時間が掛かっているのは、何か理由があるのかな」

Ｔ：「これは一つにはジレットが遺言で、『この城の調度品の価値が解らないものに売ってはいけない』とした事もありましょうが」

み：「おや、その他に理由らしきものがありますか」

Ｔ：「同じく遺言書で、尾崎行隆氏が存命中は、ジレットが尾崎氏の為に建てた家にずっと住んでいられるように、とあったそうで」

み：「へえ」

Ｔ：「行隆氏が亡くなったのは、1942年９月30日だとの事なので、それまではジレットの生前のままにしておいたのでは、と思います」

み：「なるほど。で、尾崎さんも亡くなったので、具体的な売却話が進んだのでは、という事ですね」

Ｔ：「その後は”Elementary, My Dear Watson(元々はfellow)”という言葉が、英語で最も有名な表現になったとか、ミステリーを
　　出版したであるとか、特許を取ったとか」

み：「これまで説明のあった事柄ですね」

Ｔ：「世界的な名声を誇った役者、としては今日忘れられているけれども、コネティカット州の歴史には、燦然たる名前を刻んでいる、
　　と〆ていますね」

み：「う～ん、忘れられている、のかなあ世間一般では。まあ亡くなってからでも、もう85年も経っているから、シャーロッキアン以外の
　　人にとってはそうかも知れないなあ」

Ｔ：「という訳で、”Friends of Gillette Castle State Park”作成の、訛りの強い動画については、説明を次回に持ち越したい、
　　という事で宜しいでしょうか」

み：「やれやれ、毎度の事ながら計画性に欠けるなあ。大体見通しが甘すぎるのではないですか」

Ｔ：「御叱責は至極御尤もではありますが、此処まで大分字数を費やしましたので、どうかご理解いただきたく」（平身低頭）

み：「まあジレット城の内部も大分写真を色々紹介してもらったし、ジレットの略伝もどうやら終点にたどり着いた様ですから、
　　良しとしますか」（不承不承）

Ｔ：「ありがとうございます」

み：「で、次はまた７年間のお休みの後、なんですか」（にこにこ）

Ｔ：「け、け、決してその様な事がない様にですね、色々資料に当たって」（滝汗）

み：「やっぱり伝家の宝刀のゴジラの名台詞『信じられません、全く信じられません』の出番かなあ……」（にこにこ）

Ｔ：「ひいいいいいいいいい」（七転八倒）

み：「最近大ヒットの映画の台詞を真似すると、『書く書く詐欺』・『原稿空手形』・『語られざる電脳空間漫歩帖』、
　　 私の苦手な言葉です、と言えば少しは……」

Ｔ：「あうあうあうあうあう」（顔面蒼白）

み：「まああるんだかないんだか、本当の所は解らないけれど、Tさんの『良心』とやらに淡い期待を寄せる事にしましょうか」（にこにこ）

Ｔ：「ま、ま、毎度の事ながら、頑張りたいと思います」