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バールストンの館の方へ 《恐怖の谷》事件の犯行現場 （緑色の字になっている地名等は下記に写真を載せてあります） |
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| 『恐怖の谷』の事件現場に案内しょう。この事件はサセックス州のバールストン村で発生した。バールストン館の殺人事件を警察からホームズが調査の依頼を受けるところから『恐怖の谷』の話は始ま る。正典によると、バールストン館はサセックス州の北のはずれにあり、タンブリッジ・ウエルズの西十マイル（約十六キロ）となっている。サセックスの地図を隈なく探してもバールストン村の名を捜すことは出来ない。 そこでシャーロッキアンが登場することになる。 まずはベル説(コナン・ドイルの恩師とは別人）を紹介しよう。ベルは歴史的背景を重点的な根拠とし、距離も正典記載に合致するタンブリッジ・ウエルズの西十マイルにあるフォレスト・ロウのブランブルタイ館がバールストン館である、との説を発表した。ブランブルタイ館は現在は外壁のみを残した廃虚 となっているが、ベルは1888年当時は掘をめぐらした館が現存し、そこには跳ね橋が掛かっていた、と報告している。 メリマンはドイル自身が述べているグルームスブリッジ村をとりあげ、村の西方にあるグルームスブリッジ・マナーがバールストン館であるとの説をとなえた。それは、タンブリッジ・ウエルズの西方約四マイル（六・四キロ）に位置する小さな村である。 モントゴメリーはドイルから贈られた「恐怖の谷」には「ここに描かれている古い邸宅グルームズブリッジ・マナーを楽しく思い出して頂けますよう」との献辞があり、それを根拠にメリマン説をうらづけ、グルームスブリッジ・マナー説を支持した。 ここでは、館が現存し現実感があるグルームスブリッジを紹介しておこう。現在は付近一帯がグルームスブリッジ・プレイスという公園となっており、園内にはバールストン館に相当する周囲に掘をめぐらした大きな建物があり、それがグルームスブリッジ・マナーである。しかし残念ながら跳ね橋はなく、正面玄関への通路は石の橋となっている。グルームスブリッジを支持するシャーロッキアーン達は、それは1888年当時は跳ね橋であったが、その後撤去して現在の状態に作り替えられたと言っている。園内には小さいながらもドイルの記念館があり、彼をしのぶ写真や遺品が展示されていて、一見に値する。他に、英国庭園、迷路、船遊びのできる小川、保存鉄道などの施設がある。小川は正典の「小さな流れが掘に流れ込んでいるので……堀はどぶ水のような不潔さはない」との記載に合致する。 それぞれの学説を少し検討してみよう。ベルの説は歴史的背景と正典に記載された距離が合致し説得力があるが、なにぶん、現在は廃虚となっており堀も無いので現実感に欠け、なじみにくい。それに対し、グルームスブリッジは距離は合致しないものの、堀をめぐらした城郭風の建物が現存するので、観光的な価値はある。『恐怖の谷』の舞台ではないかと想像しながら散策するのにふさわし いと思う。小林司・東山あかねは『優雅に楽しむ新・シャーロック・ホームズ読本』の中で、二つの候補地はいずれも一致しない点があるが、グルームスブリッジ・プレイスが有力であると指摘している。 ホームズは当地へはヴィクトリア駅から列車に乗ってバールストン駅で下車したとなっている。バールストン駅とはグルームスブリッジ駅であるとすれば、所用時間は東クロイドンで乗り換えて約一時間半、列車回数は一時間に一、二本あった。もし、ベル説を採用すればバールストン駅はフォレストロウ駅で事情は同様である。現在はどうか。グルームスブリッジ駅もフォレストロウ駅も廃止されている。それゆえ、チャリング・クロス駅からヘイスティング方面行きの快速列車を利用し一時間程、タンブリッジ・ウエルズ駅で下車、駅からはタクシーを利用する。シーズンの休日には保存鉄道がタンブリッジ・ウエルズ駅の近くから運行されることがあるが、非常に不定期である。（文と撮影：松下了平） |
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