年代学を始める前に
のある問題はワトソンの結婚の回数だと思います。Ｂ・Ｇ、フォルソム、ホールの３人はそれ
ぞれ異なった結婚の回数を主張しています。
Ｂ・Ｇは「四つの署名」でメアリー・モースタンと知り合う前の１８８６年１１月にワトソ
ンは別の女性と結婚した、としています。がこの女性についてはホームズ物語にはでてきませ
ん。でてきませんが、この説が現在日本では主流です。ワトソンはこの物語に出てこない最初
の結婚相手が死亡したあと、「四つの署名」で知り合ったメアリー・モースタンと再婚したと
しています。そのメアリーもホームズの失踪していた間に死亡、その後ワトソンは１９０２年
１０月５０歳の時再々婚したという説です。つまりワトソンの結婚３回説です。（再々婚した
女性の名前は不明）
次にフォルソムの説ですが、ワトソンは「四つの署名」で知り合ったメアリー・モースタンと
の結婚が初めてで、そのメアリーはホームズの失踪している間に死亡。この点はＢ・Ｇ説と同じ
です。その後ワトソンは１９０２年１１月に再婚したという、ワトソンの結婚２回説です。
（再婚した女性の名前は不明です）
最後にホールの説ですが、ワトソンはメアリー・モースタンと「四つの署名」で知り合い、結婚。
そしてホームズの失踪していた時に、ふたりの間に子供が生まれ、その子供が死亡。ホールはその
死んだ子供は男の子ではなかったかと想像しています。その子供が死亡したあと、メアリーは精神
的にか肉体的にかショックを長い療養生活を送るようになったため、ワトソンは１８９４年４月に
戻ってきたホームズと再びベイカー街で共同生活をおくるようになった。その後１９０３年に発生
した「白面の兵士」のころにはメアリーは完全に回復して、ワトソンはホームズとの共同生活を解
消して メアリーとクイーン・アン街で結婚生活をおくるようになったとホールは推測してます。
つまりワトソンの結婚は一回説です。
３人の年代学者とも、ホームズの失踪している間にワトソンの妻、または子供が死亡しているとい
う説になっていますが、これは日本語訳では「不幸」とか「悲しい離別」と訳されてますが、英語の
単語の正確に意味は近親者に先立たれること、死別という意味なので妻又は子供が死亡したという説
になっているわけです。 このように近親者との死別以外は３人の説が３人とも違いますが、もとの
物語は少々の版のちがいこそあれ同じものです。違いは研究者が物語に対してそれぞれ自分好みの解
釈を持っているということです。でも初めて年代学を調べる時に最初から自分好みの解釈を持って始
めますと、ホームズの「決して先入観を持たぬこと、事実の導くところには柔順にしたがうというこ
と」とか「資料もないのに、ああだこうだと理論的な説明をつけようとするのは大きな間違いだ」に
反することになりますので、初歩的なことから始めたいと思います。つまり物語にてでくる事実、
「ワトソンの結婚」「言及されている他の事件」この「言及されている他の事件」については異論も
有ろうかと思いますが、あるがままに観るというホームズの言葉とおり、ワトソンの記述を信じて始
めようと思います。
シャーロック・ホームズの事件を歴史的に扱おうとする試み。ある事件について相対的な日付を
定めようとする内的年代学と、それぞれの事件起こった年度を特定したり、事件どうしの前後関
係を定めたりしようとする外的年代学にわけられる。
シャーロキアンの年代学者どうしが聖典中の全部の日付について同一の見解を持つことは決して
ないがしかしながら一つの年表を研究の足掛かりとして使うため、特定の年代学者による年度設
定を受け入れる研究家もいる。
(ウェラー著ホームズ研究の基礎知識より）
