ホームズの食卓 　Ａは「海軍条約」事件で依頼人のパーシー・フェルプスが紛失した「条約文書」を見つけた瞬間の場面です。この時の朝食には「チキンカレー・ハムエッグ・コーヒー・紅茶」が運ばれていました。 　そしてＢは「ノーウッドの建築業者」事件の冒頭、依頼人のマクファーレンがホームズとワトスンの朝食の真っ最中に飛び込んできたところの場面を描いたイラストです。残念な事にこの時の食事の内容は記されていません。以前からこの二つの食卓のイラストの中の緑の枠で囲んだ食べ物がなんであるのか不思議に思っていました。見た感じとナイフが有るところをみるとパンのようなのです。 　最近この不思議な形状がどのようなパンなのかが「ビートン夫人の家政読本」の復刻版のイラストを見て判りました。Ｃの上のコテージパンを切った形状なのです。材料はTin Bread(型に入れて焼くパン)と同じですがコテージパンは鏡餅のように大小二つの生地を合わせて焼きます。 「緋色の研究」ではホームズはトーストを食べていますが、長年ホームズの食生活に合わせてきたハドソン夫人がすぐに食べてくれない事の多いホームズの習性に合わせてこのようなパン、食べる人が好みで切り分けられるパンを出すようになったのではないでしょうか。 　長い事疑問に思っていたこの二枚のイラストの食卓の上の不思議な形のものがコテージパンである事が判り嬉しいです。 (英国式朝食には薄切りトーストが定番だと思っていたのですがラウントリー著長沼弘毅訳「貧乏研究」に出てくるメニューをみると毎回常にパンをトーストつまりこんがり焼いて食べてはいない事が判りました) Ａ「海軍条約」の朝食風景 左のテーブルの上の部分拡大 Ｂ「ノーウッドの建築業者」の朝食風景 左のテーブルの上の部分拡大 Ｃ「ビートン夫人の家政読本」p335