トーマス・マンの代表作「魔の山」はスイスのサナトリウムが舞台となっている小説ですが、１９１２年肺尖カタルでスイスのダヴォスに療養中の妻を見舞ったあと、ダヴォスの体験にもとづいて書かれたものです。マンより２０年ほど前の１８９３年、スイス旅行中のコナン・ドイルはシャーロック・ホームズを葬る場所をライヘンバッハの滝にしました。ホームズとモリアーティ教授に一騎打ちをさせるために、ワトスンは肺結核の末期にある「英国の女性」を見取るためにホームズと離れるようにコナン・ドイルが《最後の事件》に書いたことは道具立ての一つにすぎません。
　しかし、スイス旅行からもどると妻のルイーザが悪性の結核である「奔馬性肺結核」に患っていることが判ったのです。コナン・ドイルは再びスイスの清々しい空気を求めてダヴォスに妻を連れていきました。ダヴォスには山と山とに挟まれた写真のように美しいシャレーの村があり、そりや馬車を馬が引いてホテルの客をレストランやスポーツ施設、音楽会の場所に運ぶと言う「魔の山」に詳しく描かれている場所だったようです。この地で静養した妻のルイーザは余命２、３ヶ月と言われていましたが、コナン・ドイルの看病がよくてこのあと１３年間生きています。
　また、コナン・ドイルが滞在したホテル「クアハウス・ダヴォス」には生まれつき身体の弱かったＲ．Ｌ．スティーヴンソンも滞在(１８８１〜１８８２）したことがあります。
「魔の山」には経済的に豊かな病人は各地のサナトリウムやホテルを移動しながら療養生活を送っていた様子が描かれてます。Ｒ．Ｌ．スティーヴンソンはスイスの気候よりサモア諸島の気候が身体にあったようで亡くなるまでサモア諸島で暮らしています。 

　記念プレートが掲げられている建物についてあやふやな書き方をしたことをお詫びいたします。下記に現在判っていることを追記しました。そしてヴィラ・アム・シュタインが建っている場所のイメージが判る写真と建物の位置関係を示す地図を載せました。

(２０１２年７月９日）

　コナン・ドイルの年譜(A Chronology of the Life of Arthur Conan Doyle)によるとコナン・ドイルと妻ルイーザたちが最初に滞在したのは「クアハウス・ダヴォス」で現時点では正確な場所は判りませんが、1893年12月10日頃到着しています。
　翌年の1894年2月中頃コナン・ドイルたちはベルヴェデーレ・ホテルに宿泊場所を移しましたが、この記念プレートのある建物はヴィラ・アム・シュタインという名前です。この事からヴィラ・アム・シュタインは当時ベルヴェデーレ・ホテルの別館だった思われます。
　なお、記念プレートにはコナン・ドイルが滞在したのは1893ー1894と記されていますが実際にはヴィラ・アム・シュタインに滞在したのは1894年2月の中頃から帰国する４月までと思われます。
　また、1912年にトーマス・マンの妻が滞在したのは1911年に新築されたヴァルト・サナトリウムです。しかし、トーマス・マン自身はヴィラ・アム・シュタインに滞在したと記念プレートに書かれているのでこの頃にはヴィラ・アム・シュタインはヴァルト・サナトリウムの別館的存在になっていたのか、またはベルヴェデーレ・ホテル、ヴィラ・アム・シュタイン、ヴァルト・サナトリウムの経営者が同じだった可能性もあります。
　現時点では記念プレートに書かれている滞在時期が違うこと、コナン・ドイルの年譜には記念プレートが掲げられているヴィラ・アム・シュタインの名前が記されていなことなどが解明されていません。これらについて新しいことが判りましたら追記する予定です。