第2章 クリフ・ロイヤルの妖怪
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私の古くからの親友であるジムは、私が知っているあらゆる男の中でも最も頑強な身体と頑強な心を持っていた。わずか１６歳で「南丘原地の親分」と称していたジプシー・リーと闘ってこれを打ち伏せてしまったほどである。彼の叔父のハリスンがこの少年に拳闘家としての訓練をほどこしはじめたのも当然のことと言えよう。
さてそれは1799年の８月のこと、私たちは今でも身震いしてしまうような冒険をした。その日は土曜日で学校は半日しかなかった。私たちはいつもの様に大好きだったウォルストンベリーの向かいにあった丘の草の上に寝転がっていた(挿絵5）
するとジムが言った。「クリフ・ロイヤルにお化けが出るって聞いたことがあるかい？」むろん私は知っていたし､とても有名な話だった。
クリフ･ロイヤル邸はエイボン卿の所有する屋敷であるが14年前4人の紳士が―――エイボン卿、私の母方の伯父チャールズ・トリージリス卿、エイボン卿の弟バーリントン大佐、その従兄弟のロシアン・ヒューム卿―――カード賭博をするために集まった。賭けは二日一晩続けられたが、結局のところバーリントン大佐の一人勝ちに終わってしまった。 |
挿絵5 
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しかし翌朝そのバーリントン大佐がベッドの側で喉を掻き切られ死んでいるのが発見されたのである。兄のエイボン卿に容疑がかけられたが彼は行方不明になってしまい、以来事件の真相は闇に包まれたままであった。
ヒューム卿がエイボン卿の相続人となっていたが、エイボン卿の生死が不明なため法律の管理下に置かれ、屋敷は手がつけられないまま荒れ果てていたのである。
私がこの話をジムにすると彼はしばらく黙っていたが、「今夜僕と一緒に出かけて､幽霊を探してみないかね？」と切り出した。私は最初断ったが、僕と一緒に行けば大丈夫とジムにいわれ、しかたなく彼と幽霊屋敷に行くことを約束した。
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その日の晩私は恐怖に慄きながら屋敷に向った。丁度窓が一つ開いていたので私たちはそこから屋敷の中へ入った。室内は14年前のあの日のまま時を止めてしまったかのようであり、テーブルの上には埃にまみれたカードが無造作に積まれていた。
死んだ大佐の部屋を見にいこうと言うジムを私が必死の思いで止めていると「階段を降りてくる者があるぜ！」とジムが言った。私にもそれが聞こえた―――階段のほうからキーキーときしる音がしてくるではないか！(挿絵６)
私は膝の力が抜けしゃがみこんでしまったが、ジムはそんな私を残し蝋燭をかかげて音のするほうへ行ってしまった。
しばらくすると彼は戻ってきて、私の腕をとると屋敷から連れ出してくれた。ジムが目撃したところによるとその幽霊は鰻が砂の中にもぐりこむように壁の中へ消えてしまったという。
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挿絵６
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| 挿絵7
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再び先ほどの恐怖が私をおそったその時、樫の並木の薄暗い中から何者かが近づいていた。ジムはそれに虎のようにとびかかった。幽霊かと思ったその人物は「なんてやつだ！手を離さなきゃ､食いついたままひきちぎってくれるぞ」と脅し文句を言ったが､その声はなんとハリスンであったのだ！彼は大きな包みを抱えて立っていた(挿絵7)
私たちは屋敷で幽霊を見たことを彼に話した。ハリスンは私たちの冒険を少し注意すると､私を家まで送ってくれると言ってくれた。しかし彼は私たちを先に行かせ、後から追いついて来たときには、なぜか先ほどの荷物は持っていなかった。
鍛冶工場の近くまで来た時ジムはハリスンに何故あの場所にいたのか疑問を投げかけた。すると往年のチャンピオンはこう答えた
「なあに､人間は歳がいくにつれてな、お前になんか分からねえような用事が沢山出来てくるんだよ。お前が四十に近い年頃になったら､今わしの言っていることが本当にわかって来るんだ」
彼はそう言うと、それ以上何も教えてはくれなかった･･･。
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