「黒沼健の事件簿(1934年発表)」と「W・H・ベル(1932年発表)の年代学」の比較の年表と解説

　さて、改造社版『ドイル全集』の表記は「シャアロック・ホウムズ」ですが「黒沼事件簿」の表記は「シャーロック・ホームズ」となっています。そして1924年に出版された金剛社版の題名「希臘語通訳事件」「最後の問題」(藤原時三郎訳)、1930年に出版された平凡社版の題名「レイゲイトの大地主」「暗号舞踏人形(の謎）」「自転車嬢の危難」(三上於菟吉訳)そして黒沼健独自の題名「黒船長ピーター」「ラグビイ選手の失踪」などを使っている１７事件がありますが、残りの題名と『ドイル全集』収録の邦題「光輝ある依頼人」を説明文で使っているので改造社版『ドイル全集』を基本的に参考にしているようです。
　それと、W・H・ベルの研究書には載っていなくて、黒沼健の「ホームズの事件簿」 だけに載っている「未紹介事件名」２１事件をみると正典６０編からまんべんなく拾い集めているのが判りました。
　これらを調べた結果１９３４年(昭和９)黒沼健が発表した「ホームズの事件簿」は枚数こそ６ページと少ないですが、単なるW・H・ベルの研究書の紹介ではなく黒沼健独自、つまり日本では初めての「年代学の研究」と言えると思います。
　また、最後に「最後の挨拶」以後のホームズの動静については「御本尊のドイルが筆を擱いた以上なんとも想像しようがない」と書いていますが、「一部の人士間の推測では、恐らく世界戦争を通じて英国の機密機関の重要な一員として、あの剃刀の刃のように切れる腕を思うままに振るったのではなかろうかと云われている」とドイルの筆を離れたシャーロック・ホームズの存在を示唆して「ホームズの事件簿」を終らせています。