「炉辺物語」の解説　　(グリーンとギブソンの書誌より） 　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　訳　清水　健 　この短編集では怪奇で恐ろしい話―冬の夜の「炉辺」で読むような物語を集めた。（序文） 　これらの短編がストランド・マガジンに掲載された時、ドイルは未発表の初期の作品をいくつも抱えていた。グラント・リチャーズはこの未発表作品か新作を出版したいと考えていた。ドイルはリチャーズに作品を渡すと約束していたが、代わりに小説を書くと申し出た。ドイルはリチャーズに「君が必要なときのために、いくつも物語を用意してある」と語っている。 　ドイルは年に一冊ずつ本を出したかった。１９００年にスミス・エルダー社が「『緑の旗』と戦争とスポーツにまつわる物語」の版権を買い取ったため、他の物語の出版を延期しなくてはならなくなった。自選集を準備するにあたり、新作を発表することが期待されたが、ドイルは「炉辺物語」の短編を含めることを躊躇った。１９０３年に母親に宛てた手紙でドイルは、自分の作品の水準を維持するために金銭的な犠牲を払わなくてはならなかったと記し、このためドイルは「炉辺物語」の短編を再版するのを拒否したとしている。 ドイルは１９０２年以降、スミス・エルダー社との親交を深める一方、グラント・リチャーズとの関係は悪化していった。１９０８年にリチャーズが破産すると、ドイルはスミス・エルダー社に「炉辺物語」の出版を認めた。