ビクトリア時代の少年冒険小説作家として有名だが、このシリーズでは「ハドソン湾」というタイトルの下、発表した作品をひととおり振り返っている。
　スコットランド生まれのバランタインは16才のときにカナダへ行き、ハドソン湾会社の現地駐在員になる。未開の原野に囲まれた駐在地に常駐する社員は二人だけ！　ひまに任せて書いた滞在記が『ハドソン湾』で、帰国後の1848年に出版される。やがて編集者にすすめられて小説家に転身し、その後は順調に作家活動をつづけていく。
　とにかく「良い人」という印象で、間違いを少なくするために現地取材や現場での経験を重ねたetc, 人柄がうかがえるエピソードが記されている。
　このエッセーの発表は1893年。バランタインが亡くなったのは1894年2月だから、最晩年の回想記だが、「読者の精神や思い
をより高尚な生活へ導きたいという努力や希望が底流として私に影響を与えてきた」という結語も、この人らしい。
　ちなみに、叔父ジェイムズ・バランタインはウォルター・スコットの本の印刷業者だったとのこと(結局、破産)。その意味ではスコットランド出版界の伝統に乗っかった作家だったのかもしれません。