クラーク・ラッセルといえば、ホームズ研究ではワトスンが愛好した作家として有名である。《オレンジの種》冒頭でワトスンは「わたしはクラーク・ラッセルのおもしろい海洋小説を読みふけっていた」と述べている。
　 さらに、ドイルは『魔法の扉を抜けて』でラッセルの海洋小説を高く評価して、60編の中から『グロヴナー号の遭難』を代表作として抜き出している。ラッセル「私の第一作」のタイトルがこの"The Wreck of the Grosvenor"であり、続いてこの長編の執筆事情などをつづっている。

　13才のときに二等航海士としてイギリス商船に乗り組んだラッセルは過酷な労働環境を経験する。やがて文筆の道に入るがあるとき劣悪な食事が原因の船員反乱が自宅近くの海で起き、首謀者に有罪判決が下るのを目撃する。
　 そこで、船員が置かれている厳しい状況を世の中へ知らせようとして書いた小説が『グロヴナー号の遭難』(1877)である。

　 女性読者にも受け入れられるようにロマンス仕立てとし、ようやく出版社を見つけて、50ポンドと引き換えにすべての権利を手放し、発行が実現する。このあたり、このシリーズおなじみの修行時代の苦労話とも読めるが、この作品に込め思いが伝わってくる。

　クラーク・ラッセル、非常に生真面目な作家という印象です。

クラーク・ラッセルの写真はこちらを参照。