(冒頭）
　シャーロック・ホームズは、暖炉のマントルピースの隅にある瓶を取り、なめらかなモロッコ革のケースから注射器を出した。白く長い、神経質そうな指でか細い注射針を整えてから、ワイシャツの左の袖をまくる。その目はしばらく、よぶんな肉のない筋肉質の前腕と手首をじっとみていた。一面に注射の跡がある。

(登場人物）
　　語り手：ジョン・Ｈ・ワトスン博士、元軍医
　　ルームメイト：シャーロック・ホームズ、探偵
　　スコットランド・ヤードの刑事：アセルニー・ジョーンズ警部

　　依頼人：メアリー・モースタン(モースタン大尉の娘）、家庭教師
　　依頼人の雇い主：セシル・フォレスター夫人
　　被害者：バーソロミュー・ショルトー(ショルトー少佐の息子）
　　被害者の弟：サディアス・ショルトー(同上）
　　蒸気艇オーロラ号の船主：モーディケアイ・スミス
　　鳥の剥製屋：シャーマン老人(トービーの飼い主）
　　ベイカー街不正規隊：ウィギンズ（リーダー）

　　インドに関連した話の中の人物
　　ジョン・ショルトー少佐（第34ボンベイ歩兵連隊）
　　アーサー・モースタン大尉(同上）
　　
　　「四人のしるし」の名前
　　　ジョナサン･スモール、マホメット・シン、アブドゥラー・カーン、ドスト・アクバル
　　　トンガ(ジョナサン･スモールに忠実な相棒）

(内容紹介）
　
第１章　推理学
　 何ヶ月もの間、頭を使う仕事や難問がないシャーロック・ホームズは気分を高揚させるために、７パーセント溶液のコカインを一日に三回も注射する毎日を送っています。このような生活に対して危惧を持っているワトスンは、コカインでの高揚は「異常で病的な作用」で「ひとときの快楽だ」と注意するのでしたが、ホームズは「頭脳が停滞しているのが大嫌いなのだ」と言うだけです。そしてジェファソーン・ホープ事件を元にして書いた《緋色の研究》の内容についても「褒めるわけにはいかない」理由は「探偵という仕事は、本来ひとつの精密な科学」なのに「ロマンチックな色づけをしようとした」と言うのでした。
　この自己中心的な言い方にワトスンは言い返しもしないで「負傷した脚」をいたわりながらさすっているだけですが、ホームズは自分の仕事が大陸まで広がっていること、理想的な探偵に必要なのは「観察力・推理力そして知識」の三つだ、そして自分の著作について語るのでした。
　そしてワトスンがけさウィグモア郵便局に行って電報を打ったことを「観察と推理」から当てたことから、ワトスンは最近入手した「懐中時計」を見せて「もとの持ち主の性格とか癖」を推理させるのでした。
　この推理の結果はワトスンを憤慨させるほど「正確」なものだったのですが、ホームズがワトスンを傷つける意図はなく「抽象的な問題の一つ」として「観察と推理」をして得られた結果だと説明すると、ワトスンは「誤解してすまなかった」と言うのでした。
　ホームズが「犯罪は平凡、生活も平凡、そして才能だって平凡なものしかお呼びじゃない」と愚痴っていると、下宿の女主人が「ミス・メアリー・モースタン」という名刺を持って、若い女性が来たことを告げるのでした。

第２章　事件の陳述
　 部屋に入ってきたミス・モースタンは服装は質素ですが品のよさと感受性が豊かで愛嬌のある顔をしていました。しかし椅子に座った彼女は内心の激しい動揺を見せていたのです。
　ミス・モースタンは二人に頼みたいことを話すために、自分の生い立ちから説明するのでした。それを箇条書きにすると

　と話すのでした。

　ホームズはすぐにライシアム劇場に一緒に行くことにして、ミス・モースタンがいったん帰ると外出したのですが、ワトスンはただただミス・モースタンを思い、夢想にふけっていたのです。

(第３章　解決を求めて）
　外出していたホームズが戻ってきたのは５時半ころでした。ホームズはお茶を飲みながら調査の結果を話すのでしたが、「この事件にたいした謎はないよ」そしてモースタン大尉のロンドンでの知り合いショルトー少佐が死んでから一週間とたたないうちに高価な真珠が送られて来たことから「少佐の相続人がミス・モースタンに償いをしようとしている」のだろうと言うのでした。
　しかし、ワトスンの少佐が亡くなって「六年も経ってから」コンタクトを取って来たのは何故だろう、という問いに「そこが難しいところだ」と途方にくれるのでした。
　そのうちにミス・モースタンが四輪馬車でやってきました。ホームズは連発ピストル、ワトスンは重いステッキを持ち馬車に乗り込むのでした。馬車の中でミス・モースタンは父の手帳にあった「建物の見取り図」と「四人のしるし」と書いた紙を見せると、ホームズはこの事件は最初に考えていたより奥が深いと一心に考え込むのでした。
　ライシアム劇場に着くと御者風の男が近づき二人が警官ではないと誓わせると、待たせておいた馬車に三人を載せ行き先も言わずに走り出しました。しかし、ホームズには街路名が判るので、テムズ河を渡って着いたのが「あまり高級な地域ではなさそうだね」と言うのでしたが、その目的地の家には黄色いターバンをかぶったインド人の召使いがいたのです。

(第４章　はげ頭の男の話）
　 インド人の召使いに案内された部屋は貧弱な家の作りとは全く異なり、異国情緒あふれる豪華な部屋でした。この部屋にいたのが謎の手紙を寄越した人物サディアス・ショルトーで、年は３０歳くらいの髪の毛がなく、興奮と緊張で身体が震えている小柄な男です。
　サディアスの父ショルトー少佐はモースタン大尉の失踪について知っていたのですが、大尉は心臓発作で亡くなっていて、遺児にアグラの財宝の分け前を渡したい、と生前言っていたというのです。
　そのアグラの財宝とはインドにいた時に偶然なことからモースタン大尉とショルトー少佐が入手したもので、少佐が財宝を持って帰国していたのですが、後から帰国した大尉と財宝の分配で口論となり、そのために大尉は心臓発作を起して亡くなった、というのでした。死体はこっそりと処分していました。
　少佐は義足の男を嫌っていたのですが、臨終の部屋の窓の下には義足の跡があり、父の遺体の胸には「四人のしるし」という紙が置かれていました。
　サディアスと双子の兄バーソロミューは屋敷中を探しましたが、財宝は見つかりませんでした。そして兄と意見があわなかったサディアスは住んでいたポンデシェリ荘を出て一人暮らしを始め、父親がモースタン大尉の娘にやろうとしていた真珠の数珠から毎年一個送っていたのです。
　ところが昨日になって宝物が見つかったと兄から連絡があり、この宝の分け前を受け取る権利がミス・モースタンにもあるので、これからポンデシェリ荘に行って兄のバーソロミューと交渉したいと言うのでした。

(第５章　ポンデシェリ荘の惨劇）
　サディアスの長い話が終ったので四人は馬車でポンデシェリ荘に向かいました。しかし、兄バソロミューが部屋から出て来ないと言うので、鍵穴から覗くと死んでいるのが判ったのでドアを押し破って入ってみると、屋根裏部屋から降ろした宝箱が無くなくなっていて、死体の前には「四人のしるし」と書いた紙があったので、サディアスは警察に知らせるために出かけました。

(第６章　シャーロック・ホームズの論証）
　サディアスが出かけるとホームズは「推理はだいたい出来上がっている」が「単純に見えていても、もっと奥深いものが潜んでいるかも知れない」と言って化学実験室のような部屋の調査を始めました。
　そして、医学部の教授が学生に向かって説明するように淡々と、観察したことをいちいち口にだしたので、箇条書きにすると、
　　　犯人はどこから侵入して、どこから出ていったのだ。
　　　ドアは閉まっていた。
　　　窓はどうか？
　　　窓には内側から掛け金がかけてある。
　　　窓枠はしっかりしていて、脇に蝶番はない。
　　　窓を開けると、近くに雨樋はなく、屋根には届かない。
　　　窓敷居に泥の足跡があり、丸い泥の跡もある、これは義足だ。
　　　一人は窓から垂らしたロープで登って来たのだろう。
　　　では、窓からロープを垂らした仲間はどこから入ったのか。
　　　ドア、窓、煙突ではない。隠れるところがないから、前から部屋に潜んでいた可能性もない。

　「天井にあけた穴からだ」(ワトスン）

　ホームズとワトスンが宝箱のあった屋根裏部屋に登るとその部屋には「屋上に出られるはねあげ戸」がありホームズが押すと開いて、ゆるやかな傾斜している屋根が見えたのです。そして、床には小さな裸足の足跡があり、この人物は割れた瓶から出ていたクレオソートに足をつっこんでいることが判りました。そしてバーロミューの死因は植物性アルカロイドが塗られていた「トゲ」だということも判りました。
　この調査が終わった頃サディアスがアセルニー・ジョーンズ警部を連れてきたので、ホームズが犯人の一人の名前と特徴を教えたのです。そしてワトスンにミス・モースタンを家に送り届けたあとシャーマン老人の「犬のトービー」を連れてくるように頼むのでした。

　(第７章　樽のエピソード）
　ワトスンはミス・モースタンを送り届けると、犬のトービーを借りてポンデシェリ荘に戻りました。すると、ジョーンズ警部がサディアス・ショルトーだけではなく、門番、家政婦そしてインド人の使用人まで逮捕していったので、巡査部長とホームズだけが残っていました。
　このあと、ホームズとワトスンはクレオソートを嗅がせたトービーを先頭にして、謎の人物の追跡を始めたのですが、トービーが探し出したのは手押し車にのっていたクレオソートの樽だったのです。

（第８章　ベイカー街不正規隊）
　 トービーが探し出した「クレオソートの樽」と犯人の足についた「クレオソート」が交差したナイツ・プレイスまで戻り再び犯人を追いましたが、今度はテムズ河から舟に乗ったことが判り追跡ができなくなりました。
　しかし、貸し舟屋のスミスが蒸気艇オーロラ号で義足の男と出航したのが判り、ベイカー街不正規隊の子供たちを使って探すことにしました。

（第９章　断ち切られた鎖）
　 ところが一日経ってもオーロラ号の行方が判らないのです。そこでホームズは船員服に着替え自ら探索に出かけたのです。
　ホームズの帰宅を待っていると、アセルニー・ジョーンズ警部がホームズから電報をもらった、と言ってベイカー街にやってきましたが、同じ頃にヨボヨボの老人がホームズを尋ねて来たのです。これがホームズの変装だということに気がつかなかったワトスンとジョーンズは驚くだけですが、もっと驚いたのはホームズが義足の男の乗ったオーロラ号を追跡するために警察の蒸気艇を用意して欲しい、と言ったことです。

（第１０章　島の男の最期）
　 オーラロ号を追跡する前に三人はホームズが用意した「カキ・雷鳥・白ワイン」で腹ごしらえをして、警察の蒸気艇があるウェストミンスター桟橋に着いたのは７時頃でした。ここからオーロラ号が停泊していたロンドン塔対岸のドッグまで行ったのですが、蒸気艇が到着する前にオーロラ号が出航してしまったのです。全速力で逃げるオーロラ号、追いかける警察の蒸気艇。激しいカーチェイスではなく、シップチェイスが始まりました。ぼんやりとした船影だったオーロラ号がしっかりとした形で見えるようになっても、オーロラ号は逃げます。蒸気艇が一艇身まで迫った時です、オーロラ号にいた小男が筒を口にくわえるのが見えました。そのときホームズたちの拳銃がなり、小男は川に落ちたのです。(あとで舟をみると私たちが立っていた所の後に毒矢が刺さっていました）
　義足の男は舵を川岸に近づけ逃げようとしましたが、泥に義足がはまり動けなくなったところを捕えることが出来たのです。

（第１１章　アグラの財宝）
　 私たちが捕えた男はショルトーを殺したのはアンダマン諸島から一緒に来た原住民のトンガで自分には責任はない、そして宝箱のことは「アグラの財宝」と言うのでした。詳しい話を聞くためにホームズとジョーンズ警部と一緒にベイカー街へ、そして私は警官と一緒にアグラの宝箱を持ってメアリー・モースタンの住むフォレスター宅に向かいました。
　鍵はなかったので箱をこじ開けると、なんと箱の中は空っぽではないですか、でもワトスンは思わず「よかった！」と叫んだのでした。するとメアリーも「よかった」と言ったのでした。
　この時、財宝には代え難い宝を手に入れたのはワトスンだったのです。

(第１２章　ジョナサン・スモールの不思議な物語）
　 ベイカー街に空の箱を持って戻ると、義足の男ジョナサン・スモールは大笑いをするのでした。逃れることが出来ないと判った時に箱から宝石を取り出し川にばらまいたと言うのです。
　そしてそのあと「アグラの財宝」を手に入れた経緯を話すのでした。その話とは、、、、
　兵隊となってインドに行き泳いでいた時にワニに襲われ義足になったこと、除隊した後はインドの農園を見回りをしていたが、「セポイの乱１８５７〜１８５９」が起こりアグラの古い砦に守備隊、民間人と一緒に立てこもったのです。この時に一緒に警護にあたったシーク教徒から藩主の宝が持ち込まれるので、奪うことを持ちかけられたのでした。
　上手い具合に宝の箱を奪い砦の中に隠したが、反乱が終ると宝箱を運んでいた人物を殺害したことが発覚してしまい、アンダマン諸島に囚人と暮らすようになった。この時に助けた原住民のトンガが慕うようになったこと、賭けに負け込んでいたショルトー少佐とモーンスタン大尉に「アグラの財宝の分け前」で「自分たち四人の自由」を要求したが、ショルトー少佐の裏切りで財宝をすべて奪われてしまったので、トンガと一緒に島から脱走してロンドンに来たと話すのでした。
　ロンドンに来ると、復讐する前にショルトー少佐は死んでしまうし財宝が見つからなかったので、邸内に内通者を送り込んで様子を見ていた。すると財宝が見つかったという知らせが来たので部屋に入るとトンガが吹き矢でバーソロミューを殺していたこと、その後は財宝を持ってイギリスから離れるためにスミスの舟を貸し切って海外にいく船が出航するまで潜伏したいたこと等を話すのでした。
　すべてを話したジョナサン・スモールをジョーンズ警部が連れていくと、ワトスンはメアリー・モースタンと結婚することになったのでベイカー街の下宿から出ていくことを伝えるのでしたが、ホームズは自分にはこれがあると言って「コカインの瓶」に手を伸ばすのでした。