1888年3月20日の夜7時過ぎ、往診の帰りにベイカー街を歩いていたワトスンは独身時代にシャーロック・ホームズとの共同生活をしていた家の前を通りかかりました。
　ちょうどその時に二階の窓にホームズの背の高い痩せた黒いシルエットが行ったり来たりしているのが見えたのです。
　ホームズの癖を熟知しているワトスンには彼がコカインが作り出す夢想から立ち上がり、新しい事件にとりかかっていることが判ったので、ホームズを訪ねることにしました。
　久しぶりにあったホームズはワトスンが７ポンド半(実際は７ポンド）太ったこと、開業医に戻ったこと、ワトスンの家には粗忽者のメイドがいることなどを指摘したのですが、すべて合っていました。

　ワトスンの観察が終わったホームズは一通の手紙を見せるのでした。内容は「ヨーロッパのある王室に貢献したホームズに任せたい問題があるので今夜8時15分前に覆面をした紳士が訪問する」ですが、便箋と文面から判ったのは紙はボヘミア地方で作られたもので、ドイツ人が書いたということです。ただ、この時すでにホームズには具体的に誰であるかが判っていたのは、客との会話で判ります。

　さて、ボヘミア国王の依頼を引き受けたホームズはワトスンに明日の3時に来てくれたら話し会いたいと言いました。翌日3時ワトスンはベイカー街の下宿に着きましたがホームズが戻ってきたのは4時頃でした。それも酔っぱらった馬丁らしき男が入ってきたのですが、それがホームズの変装でした。
　ホームズは「髪の毛はぼさぼさ、頬髭が伸び、真っ赤な顔で汚らしい服装」をした失業中の馬丁に変装して、アイリーン・アドラーの自宅の聞き込みをしました。
判ったことは、
「美人である」
「毎日訪ねてくるハンサムな弁護士ノートンがいる」
「静かな暮らしだが５時に馬車で出かけ７時きっかりに戻ってきて夕食」
などですが、見張っている最中にノートンとアイリーン・アドラーの結婚式の立ち会い人になる、というホームズでさえ予測不能な出来事に巻き込まれた、と話すのでした。

　ホームズは簡単な食事をすると「つば広の黒い帽子にだぶだぶのズボンと白ネクタイ」という「愛想のいい、人のよさそうな非国教会の牧師に変装」して、二人はアドラー宅のあるサーペンタイン通りに向かいました。着いたのは６時５０分頃でした。ワトスンは通りが賑やかなのに気がつきました。
　そのうちに馬車が着き、降りたアドラーの周りでは大騒動が起き、仲裁に入った牧師に変装したホームズは殴られて、介抱のためにアドラー宅の居間に運び込まれたのです。
　ワトスンはホームズに発煙筒を投げ込むことを頼まれていたので、窓から様子を覗いているとメイドが窓をあけました。すると、ホームズが合図をするので、ワトスンは発煙筒を居間に投げ入れ「火事だ〜！！」と叫ぶと、通りにいた人たちも「火事だ〜！！」と一斉に叫んだのです。叫んだあと、ワトスンはすぐにホームズとの打ち合わせた通りに行きました。
　すぐに後から来たホームズは「煙と火事だ言う声」に反応したアドラーが、写真を隠した場所に駆け寄り取り出そうとしたのを見たので明朝早くボヘミア王とアドラー宅を訪問する、などと話しながら歩いてベイカー街まできました。ホームズが玄関の鍵を開けようとすると、アルスター外套のすらりとした青年が「おやすみなさい、シャーロック・ホームズさん」と声をかけて通り過ぎて行ったのです。その声を聞いたホームズは相手が誰なのか判らなかったようで「さて、誰だったろう」と言うのでした。
　ワトスンはそのままベイカー街に泊まったので、翌朝早くホームズとワトスンはボヘミア王と一緒にアイリーン・アドラー宅行くと、アイリーンは夫のノートンと二人で5時15分発の汽車で大陸に発ったあとだったのです。
　いそいで、写真が入っていたはずの隠し場所を探すと写真が一枚とホームズ宛の手紙が入っていました。手紙には「以前からホームズには警戒するように忠告を受け住所も教えて貰っていた。しかし火事騒動があっても親切な牧師がシャーロック・ホームズとは思えなかったので、男装に着替えをして馬車で先回りをして玄関前で確かめて挨拶をした」と言うことが記されていました。
　 そして残されていた写真はアイリーン・アドラーだけが写っている写真だったのです。また、手紙には良き伴侶が出来たので写真を送ることはしない、ただボヘミア王からの何らかの行動があったときのお守りのために持っている、とも書かれていました。
　依頼を果たせなかったことを詫びるホームズに、国王は「アイリーンは約束を守る女」だと言ってこの結果を喜びお礼にと指輪を渡そうとするのですが、ホームズはアイリーンが残した写真を貰ってアイリーン宅を出てベイカー街に引き上げたのです。

　これまでは、女性の知恵を嘲笑していたホームズですが、これ以降は嘲笑することもなく、アイリーンの話題がでるときは「あの女性(ひと）」という敬称を使うのでした。