グラナダ・テレビ版　第5話　「曲がった男」　あらすじ 　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　by　アマデウソ 　オルダーショット・ロイヤル・マロウズ連隊のバークレイ大佐の屋敷。遠くで雷が鳴っています。 　モーニング･ルームへメイドがバークレイ夫人の為にお茶を運びました。しかしドアには鍵がかかっており、中に入ることが出来ません。扉の向こうでは大佐と夫人が激しく言い争っています。騒ぎを聞きつけ大佐付きの従者もやってきました。それから間もなく夫人の悲鳴が聞こえ、あわてた従者は表に回って、庭に通じるガラスの扉からモーニング･ルームへと入ります。部屋の中を見回すと、夫人は気絶してソファーに倒れこんでいましたが、大佐は暖炉のところで頭から血を流し倒れ、すでにこと切れていました･･･。 　場面は変わり、ロイヤル・マロウズ連隊の駐屯基地。バークレイ大佐の死の経緯が、公になることを恐れた陸軍から事件の依頼を受けたワトスンが、ホームズをつれて訪れました。ボヘミアンの気ままな生活を愛するホームズは、規律の厳しい軍隊そのものが嫌いだったので、とても不機嫌でした。二人と対応したのは、亡くなったバークレイ大佐の部下、マーフィ少佐。とりあえず、ホームズは事件の詳細を彼に尋ねました。 　マーフィ少佐は昨夜の出来事を簡単に話しました。大佐は頭部に殴られたようなあとがあり、その近くには奇妙な棍棒がころがっていて、現在のところ夫人に殺人容疑がかかっている･･･と。 　亡くなったバークレイ大佐はもともと下士官で、階級差別が厳しい陸軍において、セポイの乱の勃発時などに武勲をあげ将校に昇進。そして5年前に帰国すると連隊長へ任命された努力の人でした。 　夫妻の関係は、はたからみれば良いように思われましたが、副官であったマーフィ少佐からみると、大佐の夫人への愛情は、夫人のそれよりも勝っており、常に猜疑心と嫉妬に苛まれていたようでした。また、大佐は普段は粗野な人でしたが、時々塞ぎこむ癖がありました。晩餐会などで将校同士、インドの戦乱やクリミア戦争などの昔話に皆が花を咲かしていると、大佐だけ突然見えない手で打たれたように、黙りこんでしまうのです。 　一通り話が終わると、ホームズとワトスンはバークレイ大佐の屋敷に向いました。屋敷に到着すると、屋敷内の人々の事情聴取を始めました。メイドの話によると、その日の夕飯は7時半ごろ。そのあと夫人は8時から月に一度奉仕活動に出かけました。（ただ、大佐は夫人がこのように外出することを好んでないようでした） 　9時15分頃夫人は帰宅。メイドが迎えると顔は真っ青で気はそぞろな様子でした。そしてメイドにモーニング・ルームへお茶を持ってくるように頼みます。そのときメイドは台所へ向う途中、大佐に呼び止められました。大佐はメイドに夫人の帰宅を確認すると、夫人のいるモーニング・ルームへ入っていきます。それが彼女が見た、生きている大佐の最後の姿でした。 　メイドがお茶を用意し、再びモーニング・ルームへ向うとドアに鍵がかかっており、夫人が「卑怯者！」「私の人生を台無しにして！」「デビッド！」と罵る声が聞こえます。最後の「デビッド」については、彼女は心当たりがないとのことでした。別のメイドからは部屋の鍵がなくなっているということき聞き出しました。 　ホームズはこの部屋に第3の人物がいたと推理します。　 　そしてその人物はどこから入ったのか？ 　表のドアから出てみると芝生に何者かの足あとが続いています。部屋には侵入者が連れていたと見られる動物の足跡が残されていました。ネコではなくもっと大きな、体長が2フィートくらいの動物。カーテンを駆け上り、鳥を襲った形跡があるので肉食獣らしいです。これだけ調べると二人は屋敷をあとにしました。 　最後に向ったのは夫人がボランティアをしている教会です。そこで彼女の友人であるモリソン嬢に会いました。最初は夫人に口止めされていたため、その日教会であった出来事を話してくれませんでしたが、ホームズが夫人に嫌疑がかかっていると告げると堅い口を開きました。 　彼女達が古着の仕分けなどの手伝いをしている貧民救済のこの施設は、場所柄様々な人たちが訪れる所ですが、事件の夕べにやってきたその男は、特に哀れを誘う人物でした。背中は曲がり、足も悪く服は東洋風。あまり気の毒なので、バークレイ夫人は持ち場を離れて、その人物に声をかけました。ところが男の顔をみるなり幽霊でも見たかのように驚き、そして2、3分話をしていました。 　戻ってきた夫人にモリソン嬢が尋ねると、昔の知人とだけ告げ、この事は黙ってくれるように頼んできました。気になったモリソン嬢は、その人物のこと教会にやってくる常連に尋ねてみると、彼はインド帰りの元軍人で、今は酒場などで兵士達に手品などをみせて収入を得ているとのことでした。 　さっそく、ホームズとワトスンは酒場へその男を捜しに行きました。そして酒場の真ん中で手品をする男、そしてその手品のタネとなっている連れの動物―――マングースを見つけました。二人はひと稼ぎを終えたその男に声をかけます。男は自分が宿泊している部屋へ二人を招き入れ、そして夫人の無実を訴えました。そして自分の無実も。 　彼は大佐がなくなったのは神の裁きであり、良心の呵責であると答えました。そして今から30年前に起きた出来事を話しはじめました。その男―――　ヘンリー･ウッド伍長はかつて隊一番の美男子、そして隊一番の出世頭は亡くなったバークレイ大佐でした。二人は同じ女性―――後のバークレイ夫人―――ナンシー・デボイに恋をします。でも彼女が愛したのはウッド伍長でした。 　しかし彼女の父・デボイ軍曹は認めませんでした。ウッド伍長は無鉄砲で無分別。父親が娘の婿に欲したのは下士官ながら教養もあり、将校への昇進も約束されていたバークレイ大佐でした。ウッド伍長とナンシーは結婚を誓い合いますが、その直後、セポイの乱が勃発しました。連隊とその家族は反乱軍に包囲されてしまいます。愛する人と連隊を救うために、ウッド伍長は外の連隊に救援を求める連絡員に志願しました。そのとき地図をくれたのはバークレイ大佐でした。味方の援護射撃のあと、ウッド伍長はその地図の通りに進みましたが、待ち伏せをしていた反乱軍の捕虜となってしまいます。幾度となく拷問を受け、連れまわされるうちに、だんだん彼らの言葉を理解してわかったことは、反乱軍が自分を偶然ではなく待ち伏せして捕らえたことでした。 　そうバークレイ大佐は、恋敵を追い払うために、召使のインド人を通じて、ウッド伍長を反乱軍に売り渡していたのです。やがて叛乱は収束し、ウッド伍長をつれた反乱軍は北に逃げましたが、アフガニスタンの部族の襲撃をうけ、彼を残して皆殺しにされました。助かったものの、もはやバークレイ大佐への復讐心も潰え、英国へ帰る気にはなりませんでした。ナンシーや戦友たちには今の無様な姿をみられたくなかったからです。しかし歳をとるにしたがって、望郷の念がわき、お金をためて懐かしい英国へ帰ってきました。 　そして兵士のいるところなら、手品などで食い扶持を稼ぐことができると、オルダーショットにやってきたのです。まさか連隊がここに駐屯していると知りませんでした。あの日、今着ているインド風の衣装があまりにもみすぼらしいので、英国の服をもらいに教会へ向いました。そしてそこで30年ぶりに彼女に再会してしまったのです。 　心の奥で燃えつきかけていた復讐の炎が一気に燃え盛り、バークレイ大佐の秘密をすべて話してしまいました。しかし、そのあと彼女のことが心配となり、後をつけ屋敷内をさぐります。するとモーニング・ルームのガラス越しバークレイ大佐と彼を責める夫人の姿が見えました。そして、大佐が彼女に手を上げるのをみて、自分を抑えきれなくなり、部屋へ入りました。大佐は彼の姿を見ると、今までの良心の呵責のショックから卒中を起こし、暖炉の側へ倒れ、その縁に頭をぶつけました。助けを呼ぼうとして鍵を取ろうとしましたが、この状況では自分に不利だと鍵を抜き、部屋をウロウロしていたマングースを回収して逃げました。これが全てでした。 　真実を知るとホームズとワトスンは宿を後にしました…。 　221bへ戻ってきて、ワトスンはホームズに尋ねました。大佐の名前はジェームズ、ウッド伍長はヘンリー。では夫人が叫んでいた「デビッド」とは一体何だろう？するとホームズは待っていましたとばかり、それは夫人が大佐に対する非難の揶揄―――旧約聖書の故事―――イスラエルの王ダビデ（デビッド）が、家臣ウリヤの妻パテシバの美しさに目がくらみ、ウリヤを前線に送り戦死させパテシバを奪った―――よるものと説明しました。ホームズはいかにもそれを前から正確に知っていたという態度をとっていましたが、ワトスンはテーブルの上にあった聖書を手にとり確認しました。そして一言「調べたな？ここに戻ってから」と、 「何でわかった?」 「聖書の間に駅の食堂の領収書が挟んであった」 「お見事だよ。ワトスン」 「初歩的だよ。ホームズ！」ワトスンはそう言うと「おやすみ」と居間を後にしたのです