「青い紅玉」の題名について 　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　by　みっちょん 　聖典及びグラナダTV版の題名「Blue Carbuncle」(聖典は正確に記すとThe Adventure of the Blue Carbuncle）となっていますが、グラナダTVの邦題は「青い紅玉」です。しかし現在発行されている光文社文庫、河出版ホームズシリーズ、ちくま文庫(東京図書版）などは「青いガーネット」と言う題になっていますし、新潮文庫も平成元年(1989年）の改訂版から「青い紅玉」を「青いガーネット」に変更しています。 　これは「 Carbuncle」と言う宝石が「紅玉」つまり「ルビー」ではなく「ガーネット(ザクロ石」だと言うことからです。でも、NHKで「Blue Carbuncle」が放映された1985年頃の聖典の邦題は「岩波文庫の「蒼い紅玉」以外は新潮文庫、創元推理文庫、角川文庫、講談社文庫、早川、集英社などが「青い紅玉」と言う題になってました。 　ただ、1982年発行のJSHC会員が翻訳に参加している東京図書版ホームズシリーズ(現ちくま文庫）だけが「青いガーネットと言う題になっていましたが東京図書版ホームズシリーズはマニアックなホームズシリーズですので「青いガーネット」と言う題は広く知られていなかったと思われます。 「青い紅玉」が「青いガーネット」であると小林司/東山あかね両氏が1977年から提唱されていますが文献として読めるのは1980年発行の「シャーロック・ホームズ讃歌」(小林司/東山あかね編）に収録された川崎泰樹著「『青い紅玉』の正体」です。この本も当時のNHKの担当者はお読みなっていなかったようです。 　簡単に何が間違いかと言うと「紅玉」つまりルビーと「青玉石」のサファイアの物理的・科学的性質ははまったく同じで、ルビーとサファイアの区別は「色」によって行われているのです。ですから「青いルビー」は存在しないのです。(ルビーの性質を持った青い石は「サファイア」と呼ばれます） 　「Carbuncle」を現在の英語辞典で調べると「赤色の宝玉、丸くみがいたざくろ石(ガーネット）」と記されている辞典もあります。モーカー伯爵夫人の所有している「Blue Carbuncle」は報償金でさえ1000ポンドと言う非常に高価な「宝石」です。しかし「ざくろ石」は宝石とは言え鵞鳥が飲み込む位の大きさで「報償金が1000ポンド(現邦貨で約24.000.000円）」も出るような高価な宝石ではないのです。 　こう言うことから歴代の翻訳者は題名に悩んだのではないでしょうか。 「The Adventure of the Blue Carbuncle」の邦題を初訳から記すと 「奇怪の鴨の胃」明治32 (1899 ) 初訳 「宝石の行方」 「青目玉」 「鵞鳥の御歳暮」 ・ ・ 「緑の宝石」 「青い紅宝石の探偵譚」大正14年(1939) ・ ・ 「緑の石榴石」昭和4年(1929) 「青い紅玉」昭和8年（1933）　改造社　　延原謙訳 「蒼い紅玉」昭和11年(1935) 岩波書店　菊池武一訳 と、訳されています。昭和28年(1953年）に発行された新潮文庫は昭和8年の改造社版の訳者　延原謙ですので、これ以後「青い紅玉」が邦題として定着したと思われます。 「Blue Carbuncle」こと「青いガーネット」が「報償金1000ポンド(現邦貨で約24.000.000円）」も出るような高価な宝石なのでしょうか？ 　グラナダ版「Blue Carbuncle」の宝石は青色ではなく透明なダイヤモンドのようで「ブルー　カーバンクル(Blue Carbuncle)」は宝石の種類ではなく宝石に付けられた名前のように扱われています。 　しかし聖典では「色がルビーのような赤色ではなく青いことを、除くとあらゆる点でガーネット(カーバンクル）の特徴を備えていることで有名なのだ」とホームズは語っています。ですので聖典に登場するモーカー伯爵夫人所有の宝石は「青い」宝石なのです。 見直したら「青い宝石でした」 m(_ _)m それとチャプターは完全版が「青ザクロ石」日本語版チャプターは「ブルー・カーバンクル」となっています。 では、カーバンクル(ガーネット）はどのような色をしているのでしょうか。 春山行夫の博物誌4　宝石2に ザクロ石(ガーネット）について 「ザクロ石と呼ばれているのはこの石がザクロの実のように赤いことを意味 しているが、鉱物的には赤色以外に黄色、緑、紫、茶のものがあるし、時には 無色や黒色の物がでる。ほとんど青に近い色のものもあるとストリーター(英） は言っているがグッドチャイルド(英）はかつて青色のものが現れたことがない と言っている 」と記されています。 　もし「青いガーネット」があるとしたらとても高価なことは確かでしょう。コナン・ドイルは「ホープの呪われたブルー・ダイアモンド」をモデルにして幾多の犯罪を引き起こした「ブルー・カーバンクル」を考えついたのではないでしょうか？ 参考文献 未来趣味　日本古典ＳＦ研究會誌8号 春山行夫の博物誌4　宝石1.2から　平凡社刊 シャーロック・ホームズ讃歌　小林司/東山あかね編　立風書房