| シャーロッキアンの果てしなき冒険 by 水野 雅士 |
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| ２．ホームズ物語に出てくる主な登場人物の服装 |
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| １）男の服装 （17）ガウン・部屋着（gown, dressing-gown） |
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最後になりましたが、わが家でくつろぐときに着るガウンについて見ておきましょう。ガウンは60編のホームズ物語のうち、少なくとも12編の物語に出てきますが、そのうちの7編にホームズがガウン姿で登場します。 まず《唇の捩れた男》（p237）では、ホームズはスウォンダム・レインのアヘン窟に潜入したあと、ケント州リーにある「杉屋敷」と呼ばれるセントクレア邸にワトスンとともに泊めてもらうのですが、そこで彼は「上着とチョッキを脱ぐと、大きめの青いガウン（a large blue dressing-gown）を着て」徹夜の思索に入るのであります。しかし前後の事情からすると、ホームズがガウンを持ち歩いていたとは考えにくいので、たぶんそのときに捜索中だったセントクレア氏のガウンを夫人から借りて着たものと思われ、Ｒ・Ｌ・グリーン氏の「注釈」にも同様の見解が示されています。 《青いガーネット》（p251）ではワトスンが「クリスマスの二日後の朝のこと、時候の挨拶をしようと」ベイカー街にホームズを訪ねると、彼は「紫色のガウン（a purple dressing-gown）をはおり、ソファに横たわって」いました。また《技師の親指》（p336）においても、ワトスンが災難に遭った患者ヴィクター・ハザリをホームズのところへ連れていくと、ホームズは「ガウン姿（in his dressing-gown）で、『タイムズ』の私事広告欄を読みながら、居間を歩きまわって」いるところでした。さらに《海軍条約文書事件》（p351）でもワトスンが、窮地にあった友人パーシ・フェルプスからの、ホームズの力を借りたいと懇願する手紙を持ってホームズを訪ねると、彼は「丈の長いガウンを着て（in his dressing-gown）（略）化学の研究に熱中して」いる最中だったのであります。 そのほか《バスカヴィル家の犬》（p49）ではワトスンが外出から帰ってみると、もうもうとタバコの煙が立ちこめるなかに「ガウンを羽織り（in his dressing-gown）、陶製の黒いパイプをくわえてひじ掛けいすにこしかけるホームズの姿がぼんやりと見えた」と記されていますし、依頼人のモーティマー医師がベイカー街でサー・ヘンリー・バスカヴィルをホームズに紹介したとき（p55）も、ホームズは「ガウン姿（in his dressing-gown）」で面会しています。 死んだと思われていたホームズが三年間の空白ののちに生還した《空き家の冒険》（p40）では、ホームズの命を 狙う犯人をおびき出すために、ベイカー街の部屋の窓際にホームズそっくりの胸像を置いて、それに「ホームズの古いガウン（an old dressing-gown）が着せられ」ていましたが、首尾よく犯人を逮捕したあと部屋に戻ってきたホームズは「フロックコートを脱ぎ捨て、胸像から脱がせたネズミ色のガウン（mouse-coloured dressing-gownに着替え」て昔のホームズに戻ったのでした。また《ブルース=パーティントン設計図》）（p94）でもホームズは「部屋に閉じこもり、ねずみ色の部屋着（mouse-coloured dressing-gown）を着て、落ち着きなく歩き回って」いましたが、兄マイクロフトに事件を持ち込まれると「気力に満ち」「別人になってしまった」とワトスンは記しています。胸像といえば《マザリンの宝石》でも「部屋着（dressing-gown）をはじめとして何もかもすべてホームズと寸分たがわぬ」蝋人形が出てきます。 そのほかにもガウン姿で登場する人物が何人かいます。たとえば《まだらの紐》（p324）で座ったまま絶命していたグリムズビー・ロイロット医師は長い灰色のガウンを着て（clad in a long grey dressing-gown）いましたし、《ライゲイトの大地主》（p229）のカニンガム父子のうち息子のアレックは「ガウンを着て（in a dressing-gown)パイプをふかして」います。 《六つのナポレオン》（p285）では前節の「１」-（６）フラノ・フランネル」の項でも述べましたように、新聞記者のホレス・ハーカがフランネルの部屋着で（in a flannel dressing-gown）自宅へホームズを迎え入れています。また《這う男》（p132）でワトスンは、異常を来たしたプレスベリィ教授について「彼の両脇にはガウン（his dressing-gown）がはためき（略）巨大なコウモリさながらであった」と書き記しています。 しかし、ホームズ物語にガウン姿で登場するのはホームズ自身が圧倒的に多く、当時紳士が家でくつろぐときにはガウンを着ることがきわめて一般的だったであったとしても、ホームズは「ガウン大好き人間」だったのではないかと思えるのであります。なにしろシャーロッキアンのなかには、ホームズはガウンを全部で何着持っていて、それらはそれぞれ何色であったかを議論する人もいるくらいですから ････ 上に述べたかぎりでは、ホームズがセントクレア氏の青いガウンを借りたのを除けば、彼の持っていたガウンには紫とねずみ色があったことだけははっきりしています。 以上をもって男子の服装の部を終わります。 |
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