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さらに《白銀号事件(シルヴァー・ブレイズ)》もダートムアの調教場からウェセックス杯レースの本命馬が失踪するという事件であり、ホームズとワトスンはパディントン駅から事件現場へ向かいました。このときホームズが車中で退屈しのぎに列車の速度を53マイル半だと推定しましたが、これがシャーロッキアンたちの話題を呼びました。というのは、これは簡単な計算で、仮に１分間に車窓を過ぎ去る電信柱の数を数えて、これが26本だったとすると、ホームズはあらかじめ電信柱の間隔が60ヤードで一定していることを知っていたので、列車は１分間に60ヤード×26本＝1,560ヤード進むことになり、１時間では1,560ヤード×60分＝93,600ヤード進む勘定になります。したがって、１マイルは1,760ヤードであるから、マイルに換算すると 93,600ヤード÷1,760ヤード／時＝53.18マイル／時となるので、ホームズはこれを大雑把に時速５３マイル半と言ったのだと考えられます。しかしシャーロッキアンのなかには、この計算はそんな簡単なものではないという意見があることは、第４章「２.3）ジョン・ストレイカー」の末尾で触れたとおりであります。松下了平著「シャーロック・ホームズの鉄道学」においては「通常の算術をわざと難しく解釈しているふしがみられる。これがシャーロック学者の遊び心というものだろうか」と述べた上で、この問題に関してこれまで発表された主な意見が総ざらいされています。
《技師の親指》はワトスンがホームズに事件を持ち込んだ珍しいケースであります。すでに述べたように、ワトスンはメアリ・モースタンと結婚してまもなく医院を開業しましたが、場所はパディントン駅にさほど遠くないところだったので、駅員にも数人のかかりつけの患者ができ、そのうちの一人がある朝、ヴィクター・ハザリという水力技師をワトスンの医院へ案内してきたのであります。ワトスンが診察してみると、患者の左手の親指がつけ根から切断されていて、かなりの重症でした。ハザリの話によると、危うく殺されるところだったというので、応急手当をしたあと、ワトスンがホームズのところへ連れてきたのであります。
このほか《悪魔の足》は、ホームズが絶え間なく続いた激務と生活習慣の不摂生がたたって体をこわしたために、コーンワル地方で静養しているときに、そこで起こった事件で、物語に記述はありませんが、ロンドンを発つときにはイングランド西部への玄関口であるパディントン駅から出発したはずであります。ドイルが1927年に最後に発表したホームズ物語《ショスコム荘》──事件発生の順では1914年の《最後の挨拶》が最後の事件ですが──の舞台は架空の地名ショスコム・オールド・プレイスであります。それがどこにあったのか定かではありませんが、多くのシャーロッキアンはバークシアであろうと推察しています。もしそうだと仮定すると、ホームズとワトスンはパディントン駅から出発したものと思われます。
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