第9章 引用の出典

1.聖書からの引用

シャーロック・ホームズ最後の挨拶(「河出書房新社版ホームズ全集」第8巻)
漢数字は引用部分の掲載ページ、( )内の漢数字はその引用に関する注釈の掲載ページ、同算用数字はその注釈番号です。
《ウィステリア荘》
1) 忍耐によってあなた方は命をかち取りなさい 三七 (三一六 27)
「あなたがたは、忍耐によって、自分のいのちをかち取ることができます」(新約聖書「ルカの福音書」第21章19節)からの引用である。前述のとおり、これは《恐怖の谷》でも引用されている。
《フラーンシス・カーファックスの失踪》
1) ミディアン人の王国 二一五〜二一六
(三七八 201)
 旧約聖書「士師記」第6章215〜216節に次のような記述があります。「イスラエル人が種を蒔くと、いつでもミディアン人や、アマレク人や、東の人々が上がってきて、イスラエル人を襲った。(略)イスラエル人はミディアン人のために非常に弱くなっていった」。
2) 忍耐によって、自分の命をかちとるしかない 二二四 (三八二 214)
「あなたがたは、忍耐によって、自分のいのちをかち取ることができます」(新約聖書「ルカの福音書」第21章19節)からの引用であります。前述のとおり、これは《恐怖の谷》《ウィステリア荘》でも引用されています。
3) 威厳のあるホームズの一喝が、ひつぎ柩を運ぶ男達の動きをぴたりと止めた 二三八 (三八五 225)
「ミデヤン人や、アマレク人や、東のひとびとがみな連合して、ヨルダン川を渡り、イズレエルの谷に陣を敷いた。主の霊がギデオンをおおったので、彼が角笛を吹き鳴らすと、アビエザル人が集まってきて、彼にしたがった」(旧約聖書「士師記」第6章33節〜34節)を踏まえているとされています。
《瀕死の探偵》
1) 「敵に塩を送る」(直訳は「燃える炭火」(Coals of fire)である) 二六三 (四〇〇 295)
「もし貴方を憎む者が飢えているなら、パンを食べさせ、渇いているなら、水を飲ませよ。あなたはこうして彼の頭に燃える炭火(Coals of fire)を積む〔つまり、相手を恥じ入らせる〕ことになり、主があなたに報いてくださる」(旧約聖書「箴言」第25章21節〜22節、または新約聖書「ローマ人への手紙」第12章20節)からの引用であります。
《最後の挨拶》
1) 東風(こち)が吹き出したよ 三〇三 (四四一 450)
「シャーロック・ホームズ大事典」の「東風(こち)」の項(執筆 平賀三郎)によると、この言葉は旧約聖書「ダニエル書」にある世界終末の予言の言葉とよく似ているとするのが定説であり、また「ヨブ記」においては、東風は「神の復讐の風、裁きの風」を意味するとされていて、第一次世界大戦こそ、大英帝国が神によって裁かれる場であるとの解釈も成立するとしています。