《覆面の下宿人》に登場するユージニア・ロンダも芸能人の仲間にいれてよいと思われます。彼女は、興行師としてその名を知られていた夫のロンダとともに、観衆の前で猛獣ショーの芸を披露していました。ホームズに言わせると「ロンダは巨大な豚のような人物で、彼の妻のほうはすごい美人」でありました。ある夜、ロンダ夫妻はライオンに餌をやる際に暴れ出したライオンに襲われ、夫のロンダは死に、夫人のほうは顔をめちゃめちゃに引き裂かれましたが、辛うじて一命をとりとめました。しかしそれ以降、ロンダ夫人は顔をヴェールで隠して過ごす人生を送ることになります。ところが、発生当時は不幸な事故として処理されたこの事件の裏には秘密があり、これがじつは巧妙に仕組まれた殺人だったというのが《覆面の下宿人》の粗筋であります。事件の最後でヴェールを上げて初めて見せられたロンダ夫人の顔は「それは恐ろしいものだった。顔そのものがなくなっている、その顔の輪郭を表現する言葉はない。ぞっとするほどすさまじい廃墟から、生き生きした、美しい茶色の瞳が悲しそうに見つめているだけに、その光景はいっそう見るに耐えないもの」だったとワトスンは記しています。
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サーカスの調教師とライオン
ストランド・マガジン
1897年8月号掲載 部分拡大図
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