「左右逆転」のイラストについて

シャーロック・ホームズQ＆A

疑問

《バスカヴィル家の犬》でホームズとワトスンがヘンリー卿を尾行している黒ひげの男が乗った馬車を見
つけるシーンのイラストが「左右逆転」になっているそうですが本当でしょうか？

答

　ストランド・マガジン1901年9月号に掲載されたイラストが左右逆転になっています。

　左右逆転で掲載されているのは↓の左側のAのイラスト。

　シドニー・パジェットが実際に描いたとおりにすると右の画像Bの向きになります。

　この事について古くは長沼弘毅著「シャーロック・ホームズの対決」（文藝春秋社1967年刊）で言及
されてます。しかしなぜ「左右逆転」になっているかは記されてませんでしたが、The World of Holmesで
連載中の「シャーロキアンの果てしなき冒険」(水野雅士著）の
「e.ピカデリー・サーカスとリージェント街」

「背景に見える建物の彎曲部、すなわち南西側へ大きく張り出した四分円（グレイト・クォドラント）の状況から、ホームズとワトスンの二人が北から南へ向かって進んでいるように見えることでありまして、本文にはたしかに『オックスフォード街からリージェント街へとあとをつけた』（すなわち北から南へ向かった）と書かれているのであります。ところが、正しい原画に戻すと、背景の建物の彎曲部から二人は南から北へ向かっている絵となり、本文に書いてあることと違ってしまうのであります。これはどのよう解釈したらよいのでしょうか。これに関してはすでに多くのシャーロッキアンからさまざまな意見が出されておりますが、関矢氏の説にしたがえば『パジェットはホームズとワトスンの追跡シーンを南下ではなく北上だと思って描いた』ので『編集者が本文とグレイト・クォドラントのカーブを合わせるために裏返しに印刷した・・・』のであります。」

と、説明がされています。この、説明の補足になりますがまずは本当に左右逆転に印刷されているかどうかを検証してみると参考画像(↑左）に示したようにシドニー・パジェットのサインが逆になっているので掲載時のイラストが「左右逆転」であったのは間違いありません。　また、↓のワトスンの上着の合わせにも注目してください。Aの左右逆転で掲載されたイラストではワトスンの合わせが逆になっています。

　では、なぜサインをぼかしてまで「左右逆転」にしたのでしょう。これも水野氏が説明されてますが右上の地図上に「(ベイカー街の下宿を出て)オックスフォード街からリージェント街」へあとをつけた「ホームズとワトスン」を載せてみると遥か後方に見える「グレイト・クォドラント（大きな四分円）」の建物の彎曲が、決して参考画像（↑右）、すなわちパジェットの描いた正しい向きのイラストのようには見えないはずだということがお判りになると思います。パジェットが描いた正しいイラストではカーブが逆になってしまうのです。
　参考までに当時のピカデリー・サーカスから見たリージェント街の絵葉書 (下の画像)に尾行する男を発見した時の「ホームズとワトスンのイラスト」を載せてみました。これを見ると「左右逆転」にする必要があったと言う事が一目瞭然だと思います。ホームズとワトスンがどこにいるかお判りになるでしょうか？

(高田寛氏所蔵絵葉書を部分拡大）

(疑問・答え　みっちょん）