| 『シャーロック・ホームズ健在なり』に続く著者のシャーロッキアーナ単行本の第八冊。内容は五章からなり、それぞれの概要は以下のとおり。 |
1、「ドイルはホームズなのか」
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ドイルは実際の事件記録、自身が遭遇した事件、等を参考にしてホームズ物語を創造した。よく遭遇した事件として先ず、失踪事件をとりあげ《花嫁失踪事件》《プライオリ学校》を検討し、その他にも数件を事例をあげて説明。ドイルはホームズの生みの親であるからホームズと同じ力量を備えていた。 |
2、「ジョージ・エダルジ事件」
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本章と次章で実際に起った冤罪事件をとりあげ、ドイルが解決した過程を解説している。いずれも当時の差別や偏見を背景としており、それに対しコナン・ドイルはあたかもシャーロック・ホームズのような正義感をもって臨み、事件を実地に調査し、解決に至っている。
標題の事件の説明に章の大部分を割いているが、その概要は以下のとおり。スタッフォードシャーの炭坑に近い野原にポニーが腹部を切り裂かれて横たわっているのが少年により発見された。これだけでは大した事件とはいえないのであるが、既にそれ以前から家畜が斬り殺される事件が続いていた。そして、偽と思われるいやがらせの悪戯の手紙が横行していた。いやがらせの手紙がいちばん沢山届いたのが、これから事件の中心人物となるエダルジである。彼は皮膚の色が黒く、ゾロアスター教からキリスト教に改宗していた。これが事件の序曲であった。それから八年後に再度、家畜の切り裂き事件が始まるとともに偽名の手紙が横行した。エダルジが家畜殺傷団の首領であるという手紙が警察に届いた。警察はエダルジを逮捕した。 |
3、「オスカー・スレーター事件」
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グラスゴーで老婦人が殺されて宝石が盗まれるという一見、単純な事件であるが、ユダヤ人のオスカー・スレーターが容疑者に浮かび上がり、死刑の判決がおりた後に冤罪の声がたかまり、ドイルも無罪説側にたち、シャーロック・ホームズと同様の調査をした。 |
4、「ジョセフ・ベル教授のこと」
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標題について著者は『シャーロック・ホームズの知恵』および『シャーロック・ホームズ秘聞』でとりあげている。本章ではその後に得られた資料を追加して、総括している。 |
5、「探偵シャーロック・ホームズ出現の恩人」
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ワトスンが無くては名探偵シャーロック・ホームズの誕生は無かったであろう、との書き起こしに始まり、ワトスンとホームズを引き合わせたスタムフォード青年、ホームズに探偵を職業とする様に薦めた老トリヴァーを論じている。 ホームズの風貌は、いかにして我々読者にイメージを与えられたか、を以下のように論じている。挿し絵画家のシドニー・ペイジェット、映画俳優のウイリアム・ジレット、挿し絵画家のフレデリック・ドー・スティールを紹介し、ホームズのイメージをつくった恩人は、イギリスではペイジェット、アメリカではスティールであるとしている。そして、ホームズ物語の挿し絵画家一覧表がつけ加えられている。 |
感想
シャーロック・ホームズの出現に関与した人々を、実在、架空の区別なく列挙して考察して
いる点は、夢と現実を行き来する思考でシャーロッキアーナ的な論考であると思った。しかし
シャーロッキアーナとドイル論を混同していて読みにくいという意見もあるだろう。
二・三章でドイルの冤罪事件や差別、偏見に対するドイルの正義感がにじみ出ている。実際
の事件に臨むドイルの態度は正典の中でのホームズの態度とそっくりである。こういうところ
からシャーロック・ホームズ出現の恩人という表現が現われたのであろう。
ジョージ・エダルジ事件、オスカー・スレーター事件、ベル博士および挿し絵画家の全貌を
知るには便利である反面、シャーロッキアーナとしての面白味は少ない。
一部の読者がのべているとおり、読みにくいのも事実で、一つには引用が多くその訳文がま
ずい事もその一因であろう。誤訳と思われる部分も見られた。 松下了平
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