「ブラッドショー鉄道旅行案内」について 「ワトスン君。ちょっとそこのブラッドショーを見てくれないか」ホームズが事件捜査のために郊外へ出発する時はいつでもこのせりふを口にした。ブラッドショーとは『ブラッドショウの鉄道時刻表』という本で、１８３９年に創刊された。これが世界で最初の時刻表といわれている。そうして１８４１年１２月号から月刊となった。 　それは千頁を越える大きな本で、内容は本文、地図、索引、広告から成っている。本文には大ブリテンとアイルランドの全鉄道および航路の全列車を平日と休日にわけて全駅の時刻を記載している。加えて各頁には旗印、指示し形、十字形、イタリックの小文字、星印などでしるす暗号のような脚注がぎっしりと書き込まれている。それだけの註が必要なほど列車の運行が多 岐にわたり、複雑をきわめ、乗り換えなども、こみいっていたのだ。だから鉄道ファンにとっては読みごたえがあっただろうが、一般の人々が使いこなせたかどうか、疑問である。 　ホームズの書斎にブラッドショーが常備されていた事は、『恐怖の谷』と『ぶな屋敷』の記述で明らかである。 「ブラッドショーの時刻表」 １９１０年４月号の復刻版Ｐ398より(赤い線はベイカーストリート駅）