われわれがそこの寝椅子に寝ころがっていたその日が、つまり次なる物語の始まりの
日だった。
(2)その当時、私はクイーン・アン街に居を構えていたのだったが、それでも指定の刻限
前にベイカー街に顔を出していた。
(3)私は我が友の活動の後半期に属する事件をほとんど扱うことがなかった。
(4)翌日の夕方になってやっと私はホームズに会ったのだった。（略）会見はどうだった
かと私がたずねると、ホームズは肩をすくめてみせた。（略）「(彼女は)美人は美人
だが、しかし、じっと高みばかり見つめる狂信者のこの世のものならぬ美とでも言う
かな」(ホームズ)
(5)彼ら(グルーナー男爵)が攻撃に出てきたのだ。（略）先の会話の二日後だった。
(夕刊紙に)恐ろしい客寄せ文字が書かれていたのである。『殺人者、シャーロック・ホー
ムズ氏を襲撃』（略）ーーシャーロック・ホームズ氏が今朝、殺人者の襲撃を受け重態
（略）(私は)ベイカー街へとひた走っていた。
(6)六日間というもの、人々はホームズが生死の境をさまよっているものとばかり思い込
んでいた。
(7)七日目には抜糸が行われたが、もっとも夕刊各紙には丹毒が出たなどと書き立てていた。
ところでこの同じ夕刊紙に記事がのっていた。金曜日に（略）グルーナー男爵が(合衆国行
きの汽船に）乗りこむ、と記事はそれだけであった。
(8)「金曜日だって、彼(ホームズ）は叫んだ。「正味三日しかない」（略）「さあ、ワトスン、
きみに働いてもらうよ（略）これから丸一日がかりでシナ陶器の研究に没頭してもらおう」
(9)その夕方じゅう、その夜じゅう、ちょっと休息するだけで頑張り抜き、そして翌朝へと、
私は知識を詰めこみ続け（略）翌日の夕方ホームズのところへ顔を出した。
(10)「『ヒル・バートン』今夜、きみはこの人物になるんだよ、ワトスン」(ホームズ）
