ウッドマンズ・リー(ブラック・ピーター） 　《ブラック・ピーター》事件はウッドマンズ・リーで発生したとなっている。それはフォレスト・ロウの近くにあった。ロンドンから南方に約五十キロの地を想定して頂ければよい。 　ホームズとワトスンはホプキンズ警部の要請により事件現場へ行く、列車でフォレスト・ロウに向かい、小駅で下車し、昔の森の跡を数マイル馬車を走らせたとなっているが、駅名は明示されていない。マイケル・ハリソンはフォレスト・ロウから東南へ約二キロにあるコールマンズ・ハッチではないかと推察しており、ディビッド・ハマーもこれを支持しているのでほぼ定説と考えてよいだろう。確かに字面はよく似ているし、タンブリッジ・ウエルズから十マイルでフォレスト・ロウから二マイル弱という正典の距離的な記述も合致する。ここは、熊のプーさんで有名なハート・フィールドに程近く、ドイル終焉の地クロウバラまで数マイルという地の利である。 　現在、この経路を鉄道で辿ってみた。チャリング・クロス駅からブライトン方面行きの快速列車で南クロイドンまで行き、そこで支線に乗り換えると鉄道はイースト・グリンステッドまで通じているが、その先は廃線となっている。 　即ち、ホームズ時代の鉄道旅行は完全には再現できなかった。イースト・グリンステッドはこの地方の中核都市で、その東の街続きにフォレスト・ロウがある。うれしい事にここで「ブランブルタイホテル」と「バー・ブラック・ピーター」を見つけた。中に入ってみて驚いた。完全にシャーロッキアンを意識したパブである。ホームズやワトスンの肖像画は勿論、パトリック・ケアンズの使用した「モリ」が展示してあった。 　しかし残念ながらこの建物はいずれも二十世紀になってから建てられたものというから、ネリガン、ホームズ、ワトスンおよびホプキンズ警部が投宿したブランブルタイホテルではあり得ない。ブラック・ピーターにちなんでつけられた名前であろう、とハマーは述べ、正典に記載されたブランブルタイホテルの候補としてグレイヴタイ・マナーをあげている。 　　 　　ホームズ時代のチャリング・クロス駅：著者所蔵の絵葉書 　 現在のタンブリッジウエルズ駅：著者撮影 左側がブランブルタイ・ホテル、右側がブラック・ピーター・バー：著者撮影 　　　 　 参考文献 David L. Hammer: The Game is Afoot, Gasogene Press, 1983 Harrison Michael: In the Footsteps of Sherlock Holmes, Frederick Fell, 1960 　　　ブラッドショーへ 　　　　　　 実用事件簿便覧ブラック・ピーターへ