コナン・ドイルの全作品の内容紹介と解説・感想（その１：初期作品 １８７９年〜１８９３年)
　　　「ササッサ谷からライヘンバッハの滝までの小説」(ネタバレあり)　　　
  特別編　コナン・ドイル“1891 Pocket Diary”閲覧調査報告　３　公開日：２０１９年５月
      閲覧調査報告：熊谷彰　閲覧調査日：２０１９年３月６日　場所：大英図書館　　編集：関矢悦子
    ★註釈と解説付きコナン・ドイルの「１８９１年ポケット・ダイアリー」７月〜１２月
   

　

　　

 ドイルの「１８９１年ポケット・ダイアリー」の調査場所、概要、ダイアリーのスケッチ画像など

註釈と解説付きドイルの「１８９１年ポケット・ダイアリー」1月〜6月
   

4.内容
・月日、書き込まれた文言と数字は以下のとおり。
・月は数字ではなく英語で印刷されている(Marchなど)。
・日付の前に曜日の印刷があるが(Satなど)、省略した。
・だいたいインクによる手書きの書き込みだが、活字で記した。

   
月 日 ダイアリーの記述
(段落等は原資料のママ）
・緑色はヘスキス・ピアソン著『コナン・ドイル』の引用どおりだった書き込み。　
・赤色はピアスンの引用の訂正。
・黒色はピアスンが引用しなかった書き込みで ある。
 ダイアリー右端の縦罫線中に書かれている 註と解説
《　　》はドイル作品の邦題
☆は閲覧者の註および解説
★は編者の註および解説
・緑文字はピアソン著『コナン・ドイル』植村昌夫訳からの引用
・赤色は原著又は植村昌夫訳の訂正。
・オレンジ色の記述は『コナン・ドイル書簡集』
    数字はポンド.シリング.ペニー(１ポンド＝２０シリング、１シリング＝１２ペンス)
７ ４ 　Received for W.K.B.
　　　　　from B.J.of P   10/10
   ☆友人ウィリアム・Ｋ・バートンが『イギリス写真ジャーナル』 に書いた記事の原稿料を代わりに受け取ったのだと思われる。 このときバートンは日本で働いていた。
  7 Bought 250 shares in “Newnes
　　　　　　　　Limited”		   ニューンズ社株式を二百五十株買う。
☆株購入の書き込みはこれが初めて。ホームズ短編の原稿料を ニューンズ社へ投資したのか？
  8 Send off “Beyond the City”
　　　　　　　　　for “Good Cheer” 		  ※ピアソンは“Good Cheer” を当初の題名だと勘違いしているが(邦訳p157)、これはクリスマス特別号の雑誌名。
☆『グッド・チェアー』誌のための《都市郊外で》を送った。締め切りは９月１日。
  9 Proposed to Ward Lock
　　　　　that they should print
　　　　　‘Uncle Jeremy’ with A
　　　　　Study” for ￡50. or
　　　　　     at ￡20 as advance
　　　　　on half profits.		   ☆「ジェレミー伯父の家」と『緋色の研究』を一緒に出版するようにワード・ロック社へ提案したのであれば、興味深い 書き込み。
  11　 Received from ‘Illustrated
　　　London News’ per A.P.Watt
　　　￡23.16.0 for “Question of Diplomacy”   		23.16.0 ☆5月23日にワットに送った《外交問題》の入金。
  17 Received from Strand
　　for “Case of Identity”     		32.8.0

★4月10日に書き終え、11日にワットが受け取ったホームズシリーズ二作目の《花婿の正体》の原稿料がようやく入金になった。
三作目の《赤毛組合》はすでに5月25日に入金あり。
執筆順とストランド誌での発表順が違うのは、二作目の《花婿の正体》がストランド誌編集室で行方不明になっていた可能性も考えられる(関矢）
8 1 Received 15/ for W.K.B
　　　　　12.16.0. from c.c.c. for
　　　　　　　　　　　　　　　Practice		   ☆再びバートンへの原稿料を代わりに受け取っている。 from以下の意味はわからない。
  5 Received
　　　from gentlewoman		 22.1.0 ☆ドイルは”The Gentlewoman”誌1891年12月19日号にリレー小説の’Between two fires’,クリスマス号に《へまなスタート》を発表している。二作品を文字数で案分すると
’Between two fires’　6ポンド6シリング
《へまなスタート》15ポンド15シリング
  7 Learn that Watt has sold American
serial of ‘beyond the city’ for ￡60
Cassells being out Raffles Haw in
January /92 20 p.c. Royalty ￡100 xxx
   ※４行目xxxは読み取れず。
☆《都市郊外で》のアメリカでの掲載権が60ポンド
☆カッセルズ社による《ラッフルズ・ホーの奇蹟》の単行本に関してか？
  10 Send off The Adventures of the Man
　　　with the Twisted Lip to Watt.		   ☆ホームズシリーズの第6作目《唇の捩じれた男》をワットに送った。
コナン・ドイルが当初考えていた「シャーロック・ホームズの冒険」シリーズは6作品だった。
  13 Sent “A Sordid Affair”
　　to Watt.   4000 wd.		   ☆　《やりきれない話》4000文字をワットに送った。
『ピープル』誌1891年11月29日号に掲載。
　　　
  14 Rd 14.8.0 for
　“A Sordid Affair” 		  ☆原稿送付の翌日に原稿料を受け取っている。
  15　 Started for Holland.   オランダへ発つ。
  26　 Arrived from Holland.  

オランダから帰る。
※ピアソンは１行目のみを引用。
※２行目xxxは正確に読み取れず。
※4行目「334 11.3」と書いたあとに、33のうち後ろの3に斜め線を引き、34と訂正している。
★《ボスコム谷の謎》の稿料は10月3日にも入金になっているので、実際に入金になったかどうか疑問だが、ドイルの年間収入合計には入っている。(関矢）   

    Tauxxx  “Captain of Polestar”  
10.0.0
    1 st Instal.  Beyond the City   67.4.11
    Boscombe Valley Mystery 34 11.3
9 24 Received for American
　　　　　Serial Rights “Beyond    
　　　　　the City” 		53.16.0 ☆《都市郊外で》のアメリカでの掲載権の入金。
★ドイルは自伝でこの作品は「(アメリカで）新しく制定された著作権の発行する前」に書いたので海賊版がでた、と記しているがアメリカの新しい著作権法が発効したのは7月なのでドイルの勘違い、と思われる。(延原謙訳『ドイル自伝』p115）(関矢）
  28 xxxxx   ※読み取れず。トーイの収入か？
10 3 Received from Watt 
　　　　　for ‘Strand’ use of Boscomb
　　　　　Valley. 5 orange pips x
　　　　　Twisted Lip		   102.19.3

※３行目xは読み取れず。
☆代理人ワットから「ボスコム谷の謎、オレンジの種五つ、唇の捩じれた男」の原稿料が送られて来た。
☆ホームズ短編第4-6作の『ストランド』誌からの原稿料が、 ここにまとめて記されている。入金だと思われる。
8月26日にも『ボスコム谷の謎』の原稿料入金の記載あり。
★『ボスコム谷の謎』の原稿送付4月29日
『オレンジの種五つ』の原稿送付5月12日
『唇のねじれた男』の原稿送付8月10日
ストランド誌の原稿料支払はかなり遅く感じられる。(関矢）
  5 Signed Agreement with Cassell’s they
to pay 20 per cent. Royalty on published price, accounts
       made up June 30, December 30.
100 down on passing of proofs.		   カッセル社と20パーセントで契約。定価ベースの印税。7月30日、9月30日締め。原稿引き渡と同時に100ポンド現金支払。
※ただし、ピアソンの伝記では行の区切り方が異なっている。
☆　《ラッフルズ・ホーの奇蹟》単行本の契約。
雑誌掲載はアンサーズ誌1891年12月12日〜1892年2月27日までの12回。
  6 ￡9 from   xxxxx
　　for Raffles Haw		   ※１行目xxxxxは読み取れず。
  10 ￡5 from Balestier
　　　　for ‘Our Lady of Wrath’   		5:0 0 ※２行目は作品タイトルと思われるが正確に読みとったか自信なし。
  14     母宛の手紙に「〈ストランド〉はひたすらシャーロック・ホームズを書き続けてほしいと言ってきています。(中略)ホームズの物語はこれまで平均して約35ポンドの収入になっていたので、この手紙の返信には、作品の長さに関係なく、それぞれ５０ポンドの原稿料を払ってくれるのなら、書くかどうかは検討すると言ってやりました。」『ドイル書簡集』よりp314-p315
  15 xxxxx   ※読み取れず。トーイの収入か？
    ※これ以後は主に日本語で書き取りました。
  16 ワットから40.10.0　ラッフルズ    
    ホームズ　 ５ ☆ホームズ原稿料の出所は不明。
  17 ホームズ　 9.0.0 ☆ホームズ原稿料の出所は不明。
  26 White Company Came Out.
　　Received 		250.0 0 《白衣の騎士団〉出る。250ポンド受け取る
※ピアスンの伝記では１行。末尾２つの’0’もない。
  29     母宛の手紙に「先週はシャーロック・ホームズの新作2本--《青いガーネット》《まだらの紐》--を書き上げました。『ドイル書簡集』よりp317
11 11    

★11月11日付けの母宛の手紙によると、10月29日から2週間で、３《独身の貴族》、4《技師の親指》、5《緑柱石の宝冠》を書いた報告しています。そして「6作目でホームズを殺し、これで彼の物語を終わりにするつもりです。彼のおかげで、もっとやりがいのある作品に着手することはできません」と書いています。『ドイル書簡集』p318-p319
  13 Sherlock Holmes
　　　　　on xxxxx American Serial   		9.0.0 ※２行目xxxxxは読み取れず。
    バレスティア、白衣の騎士団、アメリカ　ライト　￡125
※ピアスンの引用と同一と思われるが確実ではない。
Received ￡125 from Balestier for American
Rights of ‘The White Company’.
   邦訳では原著にある「Received ￡125 from Balestier for American Rights of ‘The White Company’」は訳されていない。

★アメリカのバレスティアによる《白衣の騎士団》掲載権か。
  14 　ホームズ　7,8　￡90  

☆ホームズ７は《青いガーネット》、８は《まだらの紐》。
入金額が１編45ポンドなのはA.P.ワットが仲介手数料10％＝５ポンドを差し引いているため。
★『ストランド』誌は10月14日付けの手紙に書かれていた「長さに関係なく50ポンド」というドイルからの申し出を受けたのが判る。
最初の6作品の時より、かなりストランド誌からの入金が速い。
  16 Paid ￡260 for 200 more shares in Titbits,
    being 26/- per share.		   ティットビッツ社の株式200株に260ポンド支払う。１株26シリング。

☆　再びニューンズ社関連の株を買っている。ホームズ短編の
英国原稿料は、ほぼ全額を発行元の会社に投資したようである。
  20 ホームズ　9　 45.0.0 ☆ホームズ９は《技師の親指》
  30 Beyond セカンド　インストルメント 67.10.0 

★《都市郊外で》の二番目の掲載権か？
代理人ワットの仲介による契約での原稿料は150ポンドだが、
このダイアリーに記載されている原稿料収入は
8/26付けでファースト掲載権67.4.11と契約よりかなり少なく、
11/30付けのはセカンド掲載権67.10.0
そして９/24付けのはアメリカでの掲載権53.16.0

12 3 Paid ￡19 10s. for 15 more
　　　　　shares in Titbits, at 26/-.		   ティットビッツ社株式15株追加購入。19ポンド10シリング。１株26シリング。

☆この日にも『ティット・ビッツ』の株を買っている。
ダイアリーでは２行。
  4 ロングマンから「マイカ」など　 52.19.10 ★再版の印税か。
大長編の《マイカ・クラーク》の初版は1889年にロングマンから刊行された。
  7 ホームズ　10　￡45   ☆ホームズ10は《独身の貴族》
  15 xxxxx   ※読み取れず。トーイの収入だと思われる。
1892年     ★11月11日付けの手紙に「ホームズを殺す」と書いてあったことに驚いた母親がホームズを殺すことに猛反対。1892年１月６日付けでドイルは母親のアイデアを使って《ぶな屋敷》を書き終えたことを伝えています。『ドイル書簡集』p323
2月4日付けの手紙には「(ストランドから)シャーロック・ホームズ作品をもっと書けと言われ続けています。あまりにもしつこいので、千ポンドくれたら１２本書くと吹っかけておきました。彼らがこの要求を呑まないように祈るばかりです」と書いています。『ドイル書簡集』p329
    ☆MEMORANDA 1891
　日記本文後に’MEMORANDA 1891’欄４ページあり。最後の２ページ、 １枚の紙の表裏に’Receipts 1891’というタイトルの下、収入項目と 金額が記されている。項目はほとんどが小説などの作品タイトルで、 右側にそれぞれの収入金額が書いてある。他に妻ルイーズの収入も 記されている。最後に合計金額あり。妻の収入を含めて1616.0.0＝ 1616ポンド。妻の収入は１年100ポンドだったと言われている。
    ☆その他

最後の「1891年収入」欄の下方にも次のような書き込みがある。

1529.0.0
　　　　　Annual Income ￡1616

…………………………
★実際に入金を計算すると以下の数字になりました。
稿料の合計1507.6.0(《ボスコム谷の謎》の稿料が二回）
Interestの合計15.5.6　Furnitureが9.13.9
…………………………
   
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