《都市郊外で》の内容紹介　(２０１８年１０月１５日)

(登場人物）

荒野(ウィダスネル）１番住宅の家族
ヘイ・デンヴァー提督：６３歳、元艦隊司令官、現在は年金生活者
妻：夫の仕事の関係で別居生活が長かった。
息子のハロルド・デンヴァー：２４歳、シティにある投資会社の下級経営者

荒野２番住宅の家族
バルタザール・ウォーカー医師：鰥夫、５０歳くらい、現在は引退して研究に
長女のクララ：背が高く、ほっそりとして、しなやかで女性らしい優美な姿
次女のイダ：姉より少し背が低く、顔と姿は姉よりふっくらとしている。

荒野３番住宅の家族
ウェストマコット夫人：４３歳の未亡人、男女同権主義の闘士
チャールズ・ウェストマコット：２６歳、夫人の甥、両親はセポイの乱(１８５７〜１８５８）で殺害された

(内容の概略）
１７章からなる長篇の家庭小説。
ロンドンの郊外ノーウッドの新興住宅地『荒野(ウィダスネル）』に並んで建っている三軒の家族が主人公の群像物語。
この三軒の裏庭には共有の芝生テニスコートがあるので、面倒な交際の手順を省略して、すぐに三軒の住人が親密な
交際を始めることができた。

(内容紹介）

第１章　新参者たち
第２章　突破口を開く
第３章　『荒野』の住人たち
第４章　妹の秘密
第５章　海軍の征服

　１８８０年代の初め頃、ロンドンの郊外ノーウッドの新興住宅地『荒野(ウィダスネル）』に新しく建った三軒はすぐに借り手が決まり引っ越しをしてきましたが、ここの土地を所有していた老姉妹が最後に引越して来た「荒野３番住宅」のウェストマコット夫人の引っ越しを窓越しに眺めたあとに訪問するところから物語が始まります。
　元地主の老姉妹はペットとしてブルドックの子犬だけではなく蛇も可愛がり、ダンベルで身体を鍛え、煙草を吸いながらビールを飲み、男女同権について語るウェストマコット夫人の行動に驚いて逃げ帰るのでした。
　さて、隣同士で住むようになった三つの小家族ですが、建設業者が他の住宅業者との違いを出すために作ってあった「三軒共通で使えるテニスコート」での運動が共通のきずなとなり引っ越しをしてすぐから三軒の家族での交際が始まったのです。
　ヘイ・デンヴァー提督とウォーカー医師の二人は、単調なリタイア生活の中での空虚感を埋める親密な付き合いが始まりました。
　ウォーカー医師とウェストマコット夫人の関係は、夫人の話す男女同権運動についての話をウォーカー医師が聞き、そのまま提督に蓄音機(phonograph)のように、聞いたことをそのまま再生するかのように話すことから、医師の夫人への気持が高まっている事が提督には判っているようです。ただ、ヘイ・デンヴァー提督とウェストマコット夫人の間には男女同権運動の是非と言う難問があり、夫人が甥と三輪自転車(tandem tricycle)で遠乗りをして帰ってきたときの服装が膝丈の短いスカートというのも気にいらず、夫人の主宰する「女性の地位向上の集まり」への支援要請を拒否していました。しかし、夫人が七トンのヨットに二人の乗務員と共に航海をした話をすると、すっかり夫人のファンになり集会の演壇に上がることになったのです。

第６章　よくある話
第７章　『ついに幸福が来る』
第８章　前方の影
第９章　家族の陰謀
第１０章　将来の女性

　若い世代の交流は、というとウォーカー医師の姉娘クララは提督の息子でシティで仕事をしているハロルドと、妹娘イダはウェストマコット夫人の甥チャールズと親しくなり将来を共にするような気配になってきましたが、ウェストマコット夫人が「新しい義務を伴う、完全に新しい人生の領域に入るかも知れない」と言ったことと、父ウォーカー医師が亡くなった実母以外を愛することを姉妹は拒否反応を持ち、ウェストマコット夫人と再婚するのを阻止する為に夫人が実践している「煙草を吸う、短いスカート・ロングではありますがキュロットスカートを着る、父親の日常生活への細かな配慮を止める」などの行動をとったのです。父のウォーカー医師は二人の娘がウェストマコット夫人の真似をしていることが判り、とても夫人と結婚すると自分には不愉快な生活になることが実感としてわかり、求婚することを諦めたようです。

第１１章　青天の霹靂
第１２章　まさかのときの友
第１３章　未知の海で
第１４章　おーい、東だ！
第１５章　まだ浅瀬の中に
第１６章　深夜の客
第１７章　ついに入港(最終章）

　提督とウェストマコット夫人に間には尊敬と友情の一致に基づいた男性間の友情のような絆が生まれていました。ある日のこと、提督の息子ハロルドの共同経営者の名前がジェレマイア・ピアスンだとウェストマコット夫人が知ると、その男は自分の実兄で悪人であるので共同経営を止める事を忠告しました。
　しかし、時はすでに遅く、ピアソンがハロルドに送って来た手紙には「銀行預金はゼロ、損失は１万３千ポンドある。自分と同じく逃げるように」と書かれていたのです。つまり、残っていた資金は持ち逃げしていたのです。

　この悪い情報を聞いた「荒野」の三家族がとった行動は

　当事者である息子のハロルド(１番住宅)は年収５００ポンドという地位から「破産者と泥棒」のレッテルを貼られる可能性ができたので、クララとの婚約を破棄する申し出をしました。
　２番住宅の家族であるクララは婚約者のハロルドの話を聞くと、伯母から相続して現在は利息だけを受け取っている自分の財産５０００ポンドをハロルドに渡すことを父親に相談します。
　しかし、クララのお金はすぐに引き出すことができないので父のウォーカー医師が自分のお金から出すことを即断して５０００ポンドの小切手を持って、ハロルドの家に行きました。

　１番住宅つまり当事者ハロルドの父ヘイ・デンヴァー提督はウォーカー医師の小切手を受けとりはしましたが、自分の力で解決するために「年金証書」を持ってロンドンの中心地に行くことにしました。
　母親は「万事うまく治まりますとも。お金が何だっていうの」と根拠のない息子に慰めを言ったり、夫がロンドンの中心地に行って何をするのか理解をして泣きながら止めるのでした。

　ロンドンの中心に近いヴィクトリア駅についた父ヘイ・デンヴァー提督は「自分の年金を担保にして資金を調達、そして生活費を稼ぐために商船の一般乗組員として乗船するための就職活動」をするために、新聞の広告を見ていたのですが、ちょうど家に戻ろうとしていた３番住宅のチャールズ・ウェストマコットが新聞の広告に載っていた金融業者の事務所があるブレッド街にあるセント・ポール埠頭までデンヴァー提督を案内しました。
　チャールズはシティでのビジネス習慣をある程度知っているので、年老いた提督のことが心配なので決着がつくまで離れまいと決心していました。セント・ポール埠頭にあった建物に入居していた金融業者はウェストマコットが見る限り怪しい人物で、年金を担保にして提督が保険に入る事が必要だと言って知り合いの医者を呼んだのですが、そのシルクハットをかぶった医者は「ステージ上の奇術師といった態度で、頭を下げ、微笑して、帽子をさっと取ると、その中から聴診器を取り出した」あとに提督の診察をしました。しかし、この金融業者の態度がすこぶる怪しいので、サインをする前にこの事務所からでたのです。
　そのあと、チャールズの提案で伯母のウエストマコット夫人の顧問弁護士を尋ねたのです。そしてここで信頼出来る業者を紹介してもらう約束をして、新たに医師の診断を受けた後に年金証書を弁護士に預けましたが、デンヴァー提督は二人の医師にそれぞれ１ギニー(１ポンド１シリング）の診察代を渡したのです。
　提督はそのあと「セント・ローレンス商会」で就職活動をしたあと、自宅に戻りました。そして、翌日弁護士から５千ポンドの小切手と契約書が届いたのです。これで、息子の汚名をはらす資金は出来ましたが、年金の権利を売り払った提督は引っ越しのことや、これからの貧しい生活のことをあれこれと考えるのでした。お金の出所をしらない息子は両親が今後の生活についての不安を知らず、ただ喜ぶだけでした。この息子に本当のことを教えたのがウォーカー医師です。両親の犠牲的な行動に対して息子は驚き、お金を使うことは出来ないと言うのでした。
　結局は結論がでないまま、ハロルドの手元には１万ポンドの小切手があるまま、夜は更けて皆が就寝した未明に、３番住宅のウェストマコット夫人宅に強盗が入り、夫人は鈍器で殴られ気絶した状態で発見されたのです。
　意識が戻った夫人は自分の兄でハロルドと共同経営者だったジェレマイア・ピアスンが父親の遺産の分け前を求めて来たこと、断ると暴力を振るったことなどを話したのです。そして、夫人は兄の分として父親から預かっていた遺産で提督の年金書証を買い戻していたのです。
　こうして、絶体絶命状態だった１番住宅のデンヴァー宅も父親の年金証書は戻り、弁護士から送られて来た５千ポンドの小切手はそのまま使えることになったのです。
　偶然にも三家族が集まった新興住宅「荒野」の三軒は、１番地にデンヴァー提督老夫婦、２番地にはウォーカー医師と長女クララと結婚したハロルドが住むようになり、３番住宅の住人チャールズ・ウエストマコットはウォーカー医師の次女イダと結婚してアメリカ西部へ、そしてウエストマコット夫人はアメリカの大学からの招聘をうけ女性への教育をする教授としてアメリカのデンヴァー市に行き、短い期間でしたが「『人生』という悲喜劇がこの三軒の郊外住宅で上演」されたのも無事に幕が下りたのでした。