コナン・ドイルの全作品の内容紹介と解説・感想（その１：初期作品 １８７９年〜１８９３年)
　　　「ササッサ谷からライヘンバッハの滝までの小説」(ネタバレあり)　　by関矢悦子
  《唇のねじれた男》の内容紹介　(２０１８年１１月１５日)
   

原題：The Man with the Twisted Lip
初出誌：ストランド誌1891年12月号
初邦訳収録本：『日本人』紙　四回連載　1894(明治27)年1月3日・8日、2月3日・18日
初邦訳題:《乞食道楽》
参考邦訳：《唇のねじれた男》日暮雅通訳『シャーロック・ホームズの冒険』光文社文庫　

解説：《唇のねじれた男》にみる「一人二役の世界の終わり」
 
（登場人物と依頼内容)
シャーロック・ホームズ
ドクター・ワトスン
依頼人：ネヴィル・セントクレア夫人
行方不明者：ネヴィル・セントクレア
依頼人の話に出てくる人物
アヘン窟「金の棒」の間借り人　ヒュー・ブーン
アヘン窟「金の棒」の支配人、元水夫でインド人
アヘン窟「金の棒」の手下のデンマーク人
バートン警部

ブラッドストリート警部
…………………………
ネヴィル・セントクレア夫人はロンドンの金融街の中心シティの怪しげな場所にあるアヘン窟「金の棒」の三階にいた夫のネヴィル・セントクレア氏を目撃したが、部屋にはいると乞食のヒュー・ブーンしかいなかったのでセントクレア氏の行方を探すことをホームズに依頼した。

…………………………
   
（内容紹介）
　１８８９年６月１９日金曜日の夜遅くに、開業医をしているワトスンの家にケイト・ホイットニー夫人が尋ねて来ました。要件は夫のアイザ・ホイットニーがシティ地区にあるアヘン窟に行って二日も帰って来ないので、連れ戻しに行きたいので主治医のワトスンに同行の依頼でした。
　ワトスンは夜中に女性を連れていくのは危険なので、一人で行くことにしました。アイザ・ホイットニーが常連客となっていたアヘン窟は『金の棒』と言う名前で、店内は大勢の客がいましたが誰も関心を示さずアイザ・ホイットニーを見つけたワトスンは支払をするために支配人を探していると、老人に変装をしているホームズと出会ったのです。
　アイザ・ホイットニーを馬車に乗せ自宅に送るように馭者に頼んだワトスンは、ホームズが用意してあった馬車で７マイル(約１１キロ）先のリーの町(右の地図参照）にある依頼人の家に向かったのですが、この道中でホームズから聞いた事件は「シティ地区で仕事をしているネヴィル・セントクレア氏失踪事件」です。
　ホームズが語った話を箇条書きにすると		  
   
  １８８４年５月 ネヴィル・セントクレア氏と名乗る紳士がリーの町の大きな家に引っ越しをしてきて豪勢な暮らしをはじめた。
  １８８７年　


 地元の醸造家の娘と結婚、子供が二人いる。定職はないが毎朝ロンドンに出かけ、夕方にはキャノン街駅発５時１４分発で帰ってきていた。現在の年は３７歳、負債は８８ポンド１０シリングあるが２２０ポンドの預金があるので金銭問題の悩みはないと言える。
  １８８９年６月１５日 お土産に積木の購入を約束してセントクレア氏は何時ものようにシティ区に出かけた。
    夫人も用事ができたので昼食後にシティ区に行った。
    用事が終った夫人がアヘン窟「金の棒」の三階の窓に夫がいるのを見たのでバートン警部たちと部屋に入ったがセントクレア氏はいなかった。　
    部屋にいたのはシティ区の繁華街で乞食をしている顔が引きつり汚らしい姿のヒュー・ブーンだった。
   

ヒュー・ブーンもアヘン窟の関係者たちもセントクレア氏はみたことがない、と言ったが「積木」があり、セントクレア氏の上着以外の衣服がすべて部屋にあった。
また、窓敷居に血が付いていたが、ブーンは自分の薬指の傷から出た血だと反論したが逮捕された。その後、干潮になったときに小銭がたくさんポケットに入っている上着が見つかった。
  １８８９年６月１９日

 セントクレア氏の消息が判らないので、ホームズは情報を得るためにアヘン窟に潜入していたときに、ワトスンと出会った。
    　ホームズの話が終った頃にセントクレア氏の家である「杉屋敷」に着いた二人は夫人の用意した夜食を食べ、夫人からの話を聞きました。ホームズはセントクレア氏の安否は予断ならないという意見です。しかし、夫人の話では夫から「心配するな」という手紙と指輪が届いた。そして行方不明になった日の朝、夫が寝室で怪我をしたときに、何かあったと強く感じて寝室に行くくらい二人は心が通いあっているので、必ず生きていると言うものでした。
   


　そのあと、ワトスンはベッドに入って寝たのですが、ホームズはガウンに着替えてパイプをふかしながら徹夜をする体勢を取っていました。
　翌朝４時すぎに、ワトスンはホームズの叫び声で起きたのですが、昨夜の陰気な雰囲気とは違ってクスクスと笑っているホームズは理由も言わずにワトスンを馬車に乗せカバンを一つもってロンドンに向かうのでした。そしてボウ街の警察に着くと、ブラッドストリート警部の許可を得て留置場で寝ているヒュー・ブーンの顔をカバンから出した海綿に水を浸してこすり、カツラをとると「セントクレア氏を紹介します」とホームズは大声で言ったのでした。
　すべてが知られてしまったセントクレア氏は乞食でお金を稼ぎ、紳士として生活するようになった理由などを説明したあと、子供にだけは知られたくなかったので、本当のことは言い出せなかったと話したのです。
　ブラッドストリート警部も法律上の罪にはあたらないし、二度とヒュー・ブーンには戻らないというセントクレア氏の確約でこの件は公にはしないことになりました。
　最後に警部がヒュー・ブーンとセントクレア氏が同一人物であると判った理由を聞くと、ホームズは「五つの枕の上にすわり、１オンスの煙草を煙にしてですよ」と答えるのでした。

 

   シドニー・パジェット画
ストランド誌1891年12月号
《唇のねじれた男》より