シャーロッキアンの果てしなき冒険　 by 水野 雅士 第７章　鉄道で駆けつける地方の事件 ２.　地方への主な始発駅とそれに関連する事件 10）ロンドン橋駅　　(駅の位置） 　ロンドン橋駅はウォータールー橋から下流へ数えて三番目の橋、ロンドン橋の南側にあり、イングランド南部への起点であります。《ギリシャ語通訳》ではホームズ、ワトスン、グレグスン警部、それにめずらしいことにホームズの兄マイクロフトが加わった一行四人がロンドン橋駅からベクナムに向かいました。「ロンドン橋駅に着いたのは十時十五分前、そしてわたしたち四人がベクナム駅のプラットホームにたどり着いた時は、すでに十時半をまわっていた」とワトスンが回想録に記しています。また《ノーウッドの建築士》では依頼人のジョン・ヘクター・マクファーレンが朝早くノーウッドを発ってロンドン橋駅に着き、その足でホームズを訪ねています。《ブルース-パーティントン設計図》は地下鉄そのものを犯罪に用いた事件であることはすでに述べましたが、ちょうどトンネルから出てまもなくオールドギット駅にさしかかる地点の線路の傍で被害者カドガン・ウェストの死体が発見されました。ところがその死体のポケットからブルース-パーティントン型潜水艦の設計図の一部が出てきたのであります。これは最高の国家機密としてウリッジの兵器工場に厳重に管理保管されているはずのものだったので大問題となります。ホームズとワトスンは死体発見現場を調べたあと、ロンドン橋駅から列車でウリッジへ向かいました。 　そのほか《隠居絵具屋》でワトスンは、多忙なホームズに代わって依頼人ジョサイア・アンバリーの住むルイシャムへ調査に出かけ、帰りにブラックヒース駅から列車に乗り、ロンドン橋駅で降りています。なお、本章「２.３）ヴィクトリア駅」でも触れたとおり《黄色い顔》に出てくるノーベリへは、ヴィクトリア駅のほか、このロンドン橋駅からも行けるので、その可能性も否定はできません。 20世紀初頭の「田舎の駅」の風景 松下了平所蔵写真より