| 1901年 | 5月 プライアリイ・スクール |
| 夏 レイディ・フランセス・カーファックスの失踪 | |
| 10月4日 ソア橋事件 | |
| 冬 赤い輪 |
とは微妙に違うこともありますのでご了承下さい。
最初にプライアリイ・スクール事件の発生年月日を決めようと思います。資料の(2)にあるよう
に行方不明になったサルタイア卿の父親のホルダーネス公爵は1900年以来、ハラムシャー州総
監と記されているのこと、そして(4)に5月13日が月曜日であることが書かれていることから、
1900年以後に5月13日が月曜日なのは1901年だけであるという、ことからこの事件は1901年
5月に発生したことが判ります。事件発生日は簡単に判りましたが、注意すべき事はホームズの受
け取った報酬の金額の6000ポンドもしくは(9)の「差し上げるのは12000ポンドでしたな」とい
う公爵の言葉から12000ポンドと言う多額な金額のことです。
1903年に発表されたギッシング作の「ヘンリー・ライクロフトの私記」の中で主人公の貧しい
ヘンリー・ライクロフトは50歳の時友人からの遺産として年間300ポンドの終身年金を受けとる
ことができたので南イングランドの田舎で家政婦をやとって悠々自適に生活をおくれるようになり
ました。独り者の男性が年間300ポンドあれば田舎では生活出来るのですから、ホームズがホルダ
ーネス公爵から報酬として受け取ったが6000ポンドとしても20年以上生活出来る大金なのです。
参考までにワトスンが受け取っている障害年金は一日11シリング6ペンスは年間にすると約200ポ
ンドです。
プライアリイ・スクール事件の日付は簡単に判りましたが、次の三つの事件の日付は難問なのです。
どの事件とも1901年ではなければいけないと言う記述がどこにもないのですが避けては通れません
ので何とか日付を決めようと思います。
レイディ・フランセス・カーファックスの失踪の失踪の失踪で確かな日付というのは資料の(5)の
シュレジンガー博士ことピーターズは1889年の酒場で耳を噛まれたと言う記述だけです。これで判
るのが1889年以後ワトスンがベイカー街に住んでいる時ということしかわかりません。つまりホー
ムズが戻ってきた翌年の1895年から1901年の7年間の間に起きた事件だとしか判らないのです。こ
れでは大ざっぱ過ぎるので本文を検証して見ると本文の(1)に「なぜトルコ風呂にしたんだ、体はだ
らけちゃうし」と言うホームズの言葉があります。このことからホームズがワトスンと一緒にトルコ
風呂に行っている1902年9月と物語の中で日付が出てくる「有名な依頼人」事件よりある程度日にち
が離れていると思います。また(7)に「小さいがすこぶる優秀なホームズ自身の組織」つまり浮浪児の
ベイカーストリートイレギュラーズには出来ない中流以上の捜査の出来る組織を作るにはある程度時
間がかかると思います。私にはここまでしか判らないので判らないときはどうするかと言うと、各年
代学者の説をじっくり読み比較研究するのですが、ホールは一緒に馬車に乗っていたのは病気が良く
なったメアリー・ワトスンであることを条件に、しかし私は馬車に乗っていたのはワトスンの妻でも、
恋人でもないと言う条件をつけてフォルソムの説を受け入れて「レイディ・フランセス・カーファック
スの失踪」は1901年の夏に発生したとしました。
では、次の難問の「ソア橋事件」です。この事件は日にちははっきりと、本文の(1)の「10月の荒涼たる
朝だった」と言うのと(4)の「10月3日。明朝伺いたい」という依頼人ギブソンの手紙から10月と言うの
が判ります。問題は給仕のビリーが1880年代の終わりに発生した「恐怖の谷」に出てくるビリーなのか、
マザリンの宝石に出てくるビリーなのかが判らないのです。こう言うときは先ほどのカーファックスの失
踪と同じく各年代学者の説の比較検討が始まりますが、年代学者の不確実な証拠によって決定された日付
を否定してしまうと後には何も残らなくなり、日付はうすれゆく空の彼方に消えてゆく、と言うホールの
言葉通りになってしまうのです。で、私はフォルソムの1901年にソア橋事件が発生したと言う説を積極
的に否定出来ないのでホールと同じくより良い考えが浮かぶまでフォルソムの説に賛成してソア橋事件は
1901年に発生したと、します。詳しくは平山さんが翻訳されたフォルソムの「ベイカー街年代学」をお読
み下さい。
次は「赤い輪」事件です。これまた日付を決めるのが難しい事件です。判っているのは本文編にあるよう
に「ホームズとワトスンが同居していてワグナーの演奏があった冬のある日」だと言うことだけです。こ
れではどうにもならないので次に着目するのは(3)の「指紋が付いてしまって、自分の正体が判ってしま
う云々」です。スコットランドヤードが指紋分類のガルトン・ヘンリーシステムを採用したのが1901年
なのでそれ以前には犯罪者は指紋の心配はしていないというのです。ところで指紋については「ノーウッ
ドの建築業者」の中でレストレードがホームズに「同じ指紋が二つとないのはご存知ですよね」と言って
いるのですが、ノーウッドの建築業者は物語の他の記述で発生したのは1895年以前とされていて、ノーウ
ッドの建築業者に出てくる指紋についてはB-Gも結論を出していません。
でも「赤い輪」事件で指紋の事を年代決定に使えないとなると、それこそ「うすれゆく空の彼方に」消えて
しまうので先人がたどり着いた1901年以後の冬、フォルソムは物語の中の朝霧、日の暮れ方などを参考に
して1902年の2月と結論を出していますが、私は2月を冬と表現出来るかどうか判らないのでとりあえず
「赤い輪」事件は1901年の冬に起きた事件としました。と言って自分のこの結論に満足しているわけでは
ありません。
