 |
||
 |
||
| 訳 水野雅士 |
私には米国に帰化した中学校同窓の親しい友人がいる。バ−バラという可愛い女性と 結婚して、シカゴで歯医者をやっている。なんでも、奥さんの父親が最近高齢で亡くな り、遺品を整理していたところ、そのなかからシャ−ロック・ホ−ムズから奥さんの祖 父に宛てた数通の手紙の束が出てきたという。酸化の進んだボロボロの紙にびっしりと タイプで打たれており、サインだけは自筆になっているものだ。奥さんから相談を受け た友人は、大発見だと意気込んで、さっそく自分の周囲にいる二、三のシャ−ロッキア ンに当たってみたところ、みんな一笑に付されたという。そこで彼は、私がホ−ムズに 凝っているのを知っているので、私にお鉢を回わしてきというわけである。奥さんの祖 父に当たる人とホ−ムズとの関係は、いまのところよくわからないが、手紙の内容から すると、ホ−ムズよりはいくぶん年下で、若いころは恋の悩みを話し合うほどの仲だっ たようだ。にもかかわらず、ホームズは相手に対して何の遠慮もためらいもなくワトス ンが唯一無二の親友だと語っているところをみると、相手を友人の範疇外においている ようだ。おそらく遠戚である可能性が高い。とすれば、私の友人もまたホームズの遠戚 の一員であるという、喜ばしい結果となる。 ここにその手紙の内容を訳して紹介するが、詳細に検討してみると、ワトスンの回想 録とも多くの点で辻褄が合っており、自筆サインは目下専門家に鑑定を依頼しているが、 その結果も待たずに、この手紙を偽物と断定するのはやや早計ではないかと思われる。 読者諸賢のご判断を仰ぐ次第である。 訳者 |
